人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、1月24日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けします。今回は、欧米型人事の本質を同誌編集長、海老原嗣生が語った内容の前半部分をお伝えします。執筆は同誌副編集長の荻野です。※2014/02/13の記事です。
日本企業と欧米企業の人事の違いというテーマをHRmicsレビューが正面切って扱うのは、ちょうど1年前の第14回以来、2回目となる。その時は、全員がエリートの日本企業V.S.少数のエリートと大多数のノンエリートに分かれている欧米企業、という形で、彼我の違いを浮き彫りにした。
今回の海老原の話は、もっと基礎的なものとなる。まさに採用に関わるど真ん中の話で、入職の形態がまるで違う、ということなのだ。
海老原は最初にこう釘を刺す。「この話をしっかり理解できれば、『外資の仕組みはすばらしい。うちでもリーダーの早期選抜、部署ごとのサクセッションプラン(後継者育成計画)、タレントパネル(優良人材の棚卸し会議)をやらなければ』という安易な欧米信仰がなくなるはずだ」
海老原はその話を次のような例を用いて説明する。
日本と欧米、それぞれ自動車販売会社があるとする。日本の会社では、大衆車を売る営業2課に配属された人(ヒラの正社員)は、隣の営業1課に移るのも、大阪支社に転勤になるのも、はたまた別部署の経理に異動するのも、さらには働きぶりと能力が認められ、ヒラから主任に出世するのも、人事主導という形でどれも可能だ。
それに対して、欧米は違う。例外はあるものの、基本は最初に入った営業2課で入った役職の仕事を延々やり続ける。
日本の会社に入ると、上下左右含め、社内をぐるぐる回ることになる。それが可能なのも雇用契約が「会社契約」だからだ。一方、欧米は基本的に異動がない。欧米の場合は「ポスト別契約」だからだ。
海老原:「わかりやすくいうと、日本の場合、A社に入った正社員は『A社雇用』である。それに対して、欧米の場合は『A社/ニューヨーク2課/ヒラ社員雇用』ということになる」
昨今、世間では限定型正社員の議論がかまびすしい。海老原いわく、「欧米型の正社員イコール限定型正社員、という認識をする人が多いが、それは間違っている」。
なぜか。限定型正社員とは、原則として総合職のように人事主導で配置や任用が決まるが、その一部を「限定する」だけだからだ。基本は、職種と働く地域のどちらか、もしくは双方、というケースが多い。つまり、職務類型や地域が同じなら、その中で、自由に異動は「させられる」ことになる。営業1課採用で大衆車を売っていた人が、2課で高級車を売ることになることも普通にある。もちろん、上の役職への昇進は当然だろう。これに対して、欧米のポスト別契約は、職務類型で雇用するのではなく、あくまで「ポスト」採用となる。それは、大衆車を売る人が、高級車の部署に移る場合でさえ、基本は、契約変更を通過せねばならない。再度言うが、職務類型ではなく、「ポスト」が基礎になる雇用契約なのだ。
海老原:「雇用契約のデフォルト(初期値)が無限定なのが日本、欧米は明確にポストがまずあり、そこに足りない場合、それ専用の人と契約する。そこに大きな違いがある」
こうした違いが当然、人事管理にも大きな影響を及ぼす。
日本企業の人事管理の基準は能力等級だ。たとえば係長相当の4という等級に、極端なことを言えば、何人が該当してもよい。能力が高まれば、誰でも上に昇級できる。ただし、係長、部長といったポストがつくとは限らない。能力等級上の役職であり、課の長、部の長という意味ではないのだ。
それに対して、欧米企業の人事管理の基本はポストであり、経営計画によってその数が厳格に定められている。あるポストで欠員が生じない限り、本人の能力が高まったとしても昇進は起きない。
事業計画で組織変更が行われ、あるポストが消滅した場合を考えてみる。
先に見てきたように、日本の場合、東京本社1課のヒラ社員は隣の2課、もしくは支社、さらに他部署に異動させられる。
欧米の場合は、そうした異動は行われず、基本的に雇用契約が終了し、会社を辞めざるを得ない。たまたま別の支社で同じような仕事を担当するポストが空いていた場合、そこへの優先応募権が付与される場合もあるが、確実に採用されるわけではない。
能力不足あるいは低業績者への対応はどうか。
前述のように、日本企業ではポストが固定していないから、所属チーム(上司が甲さんから乙さんへ)、勤務地域(東京から大阪へ)、扱う商材(大衆車から高級車へ)、あるいは職務(営業から経理へ)を変更させることができる。
対する欧米企業ではポストが固定されており、そうした異動ができないので、会社をお引き取りいただくことになる。
その時に活用されるのがPIP(Performance Improvement Program)と呼ばれる業績改善計画なのだ。期間を区切った明確な目標を与え、その達成度合いによって、その人の今後が決まる。もちろん、その実施および中身には本人の同意が必須だ。目標未達の場合は、雇用が終了するか、仕事が簡単な別のポストが用意される。それを嫌って、転職する人も出てくる。下の仕事に就いてしまうと、そこでの待遇が次の社での待遇の基本となってしまうためである。
ポストが明確なので、業績目標やそれに対する評価も行いやすい。こうしたPIPを使った退職勧奨が非常にうまくはまるというわけだ。そして、何事にもアカウンタビリティを重視する欧米の場合、PIPという通過儀礼を経て、降格や解雇という契約変更が可能となる。
海老原:「以上をまとめると、日本人と欧米人の仕事観、就業観の違いに行き着く。日本人は会社という大きな袋に入るのが「入社」だ。一方の欧米は部署、地域、役職で区切られるポストでのみ、会社と繋がっているイメージとなる。しかも世界のスタンダードは欧米のほうで、日本型は世界では少数派だ。他には韓国ぐらいだろう」
この海老原の喩えに触発されて書くと、日本企業の内部労働市場は非常に柔軟性が高いということだろう。それに対して、欧米のそれは悪くいえば硬直している、よく言えばルールがきっちりしている。外部労働市場の仕組みが内部にまで持ち込まれていると言えるのではないか。
なぜそんな違いが生まれたのか。日本の場合、会社という大きな袋の持ち主が社員だからではないだろうか。社員のものだから、社員は袋の中を自由に動き回ることができる。正確には、自由に動かすことができる。欧米企業も、当然、袋はある。ただし、その袋は社員ではなく、株主のもの。社員が自由に動く仕組みよりは、外部労働市場と同じ仕組みのほうが合理的となるわけだ。
次回はこの話の続きで、彼我の採用システムの違いに迫っていく。
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