日本人が誤解している「欧米型雇用の本質」

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日本型雇用と欧米型雇用の違いについて語ります。

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、1月23日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けします。今回は、同誌編集長、海老原嗣生による講演要旨を同誌副編集長の荻野がお伝えします。※2013/02/14の記事です。

ステレオタイプな見方を排すべき

日本型雇用はもう終わりにすべきだ。有無を言わせぬ異動や転勤は人権無視も甚だしい。全員が遅くまで残業し、年功序列・終身雇用が相変わらず、維持されている。その点、欧米は違う。誰もが気軽に転職でき、定年まで働く人はほんのわずか、日頃からワークライフバランスが充実し、国境を超えて活躍するグローバル人材がごろごろいる……。

お分かりだろうか。日本型と欧米型を対比する、マスコミにありがちな、こんな見方がいかにステレオタイプで誤解に満ちているか、ということに。種明かしをしておくと、欧米の働く人は一握りのエリートと大多数のノンエリートに画然と分かれている。上記はその2つをごっちゃにして、日本人と比べているだけなのだ。

このHRmicsレビューでも日本と欧米の雇用比較は、海老原が何度か行ってきたが、今回はその「まとめ」とも言える内容となった。

出世が当たり前の日本、そうではない欧米

何かと何かを比較するには、データで見るのが一番だ。

海老原はまず、男性フルタイマーの昇給と昇格の実態を比較したデータ(図表1)を提示した。

昇給の状況から見ていくと、日本は成績中位層でも大きく昇給していくものの、50歳以降のシニアになると、下位・中位・上位に関わらず、一律に降給していく。それに対して、アメリカは35歳以降の昇給がほとんどない。その代りに、シニアになっても降給はない。

図表1:日米の年功昇給の実態比較

次は昇格状況である。下図をご覧いただきたい。いずれも、男性・フルタイマー就業者(非正規含む)でデータを取っている。

図表2:日名の年功昇格状況比較(男性フルタイマー雇用者

日本は20代で役職者(部長・課長・係長のほか、主任・職長も含む)になる比率は1割にも満たないが、50歳になると、何と4分の3が役職についている。アメリカは「役職者」のデータがないので、エグゼンプション率(残業代が支払われない)で見てみた。エグゼンプションには管理職以外(係長以上)に、裁量労働で働く企画職・技術職・営業職などを含む。それでも熟年世代で4割台に留まるという、率の低さにまず気づいて欲しい。次に、その数字の年代推移だが、30歳前後でその値は35%になり、それ以降、40%台でほぼ一定となっている。

海老原:「昇進における年功要素が大きく、40代後半まで昇格できるのが日本、逆に年功要素が小さく、30歳までに、昇格できるかできないかが決まるのがアメリカである。そもそも役職者の割合から彼我の差がある。全男性雇用者に占める役職者の比率は、アメリカが1割程度に対して、日本は3割を超えている。日本と違って管理職にまでなれる社員はごく少数なのだ」

入り口が一つの日本、二つある欧米

では、欧米でもエリート層に入ってしまえば、日本同様、すいすいと昇進できるのかというと、それも間違いだ。たとえば、詳細な数字がわかるフランスの場合、5年生グランゼコールの名門校を卒業して入職するエリート層のカードルでも、全員が課長以上になれるわけではない。係長・主任クラスで終わる人が、50代でも4割程度出現する。

海老原:「カードルの場合、実力次第で職位も給与も変わるため、最終的な賃金差は2.5倍にもなる。日本では、最も賃金の高い50歳から54歳の課長と部長、そして課長と係長を比べた場合、差は20%しかない」

エリートもつらいよ

なぜこうした格差が生まれてくるのだろうか。

エリート、ノンエリートという入り口という側面もあるが、ノンエリート層からの抜擢もあるので、階層的な固定とは言えない。ただし、それは30歳過ぎまでで終了するため、それ以降は、ノンエリートは昇進コースに乗ることは難しく、そこで、職務相応の給与となり、昇給がストップする。これが一つ目の「格差」要因。

一方のエリートも、一生安泰というわけではない。能力不足や大きな失敗を犯した人には、随時、上司による厳しい指導が待っている。明確に数字を示して、それに期限を儲け、達成できない場合は、降給や降格、退職を迫られることもある。その結果、エリートといっても、同じ待遇というわけではなく、容赦なく賃金差、昇進差が(日本企業以上に)現れるのだ。

それぞれの長所と短所

入口は一緒、全員が管理への階段を昇れるのが日本、入口から分かれており、それは30歳過ぎまで抜擢・入れ替えのチャンスはあるが、総じて一生ヒラの人が多いのが欧米。多少、乱暴だが、それぞれの特徴をこのようにまとめることができる。

では、それぞれのメリット、デメリットはどのようになるのか。

まず欧米型から。一生ヒラということは、賃金が職務に見合っているということであり、企業の出入りがしやすくなる。育児のため休職した女性でもすぐに復職できる。しかも、仕事の質と量はほぼ一定で、残業も休日出勤も少ない。男性も育児や家事に十分な時間を割くことが可能となり、ワークライフバランスが充実する。これがメリットだ。

賃金が上がらないままで、熟練の腕が確保できるため、年齢が上がっても、企業が辞めさせようとしない。これも働く人にとってのメリットだろう。その結果、同じような賃金でも、スキルが不足している若年の雇用を企業が躊躇するようになるため、若年の失業率があがる。これがデメリットである。

日本型のメリットは、全員が出世の階段を昇るわけだから、明日の部長、明日の役員を目指し、皆のモチベーションが非常に高くなることだ。ただ、残業、異動、何でもござれとなるから、女性には厳しい。仕事もくるくる変わるから、育児休職でブランクができた女性は復帰が難しい。ワークライフバランスの確保も容易ではない。つまり、総じて女性には厳しい。これがデメリットである。

もうひとつ、働く人にとってのデメリットが定年制の存在である。賃金が50代まで上がり続けるため、実際の職務との間に乖離が生まれる。それをリセットするのが役職定年であり、それでも足りず、強制排出する仕組みとしての定年制が必須となる。

ただ、若年に優しいのがこの日本型だ。若年は熟年と比べたら安い賃金で済むから、雇用して育成するインセンティブが企業に働く。日本においては若年の失業率が低い理由がこれだ。

結局、女性にしわ寄せがいく日本型

さて、欧米型、日本型の比較から、若年、女性の働き方まで来たところで、話は佳境に入った。男女共同参画という面では、両者の違いはどうなるのか。それを示したのが下の図である。

図表3:欧米と日本の家計維持と共同参画の違い

すなわち、欧米のエリート家庭では、夫も妻も昼夜分かたず働いて高給を稼ぐ。その分、家事や育児は民間サービスを利用する。一方、ノンエリートの一般家庭も同じ共働きだが、稼ぎはそんなにないので、家事や育児を2人で分担する。それができるのも、2人ともヒラでワークライフバランスが充実しているからだ。

日本はどうだろう。かつては夫だけが働き、家事や育児はもっぱら専業主婦たる妻の仕事だった。ところが長期の不況により、夫の賃金が減らされてしまったので、妻がパートに働きに出る場合が多くなっている。この場合、家事や育児は主に妻が担当する。ワークライフバランスは以前も今も取れないままだ。夫は相変わらず、仕事で大変だが、それよりも留意すべきは、正社員としてのキャリアを捨て、家計補助要員として働かざるを得ない女性の存在である。

海老原:「欧米のノンエリートの働き方を日本も取り入れるべきではないか。誰もが出世の階段を登れる社会は、悪いものではない。ただ、女性活用という意味において大きな欠点があるのも事実だ。そこを欧米型で補うべき時が来ている」

問題は地下茎のようにつながっている。女性の問題は男性の問題であり、日本全体の働き方の問題なのだ。

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