精神障がい者の雇用義務化がもたらすものとは

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障がい者雇用を巡る法改正の動きを中心にお送りします。

最近、人事の世界で、ダイバシティという言葉があまり使われなくなったと思いませんか?その理由は、ダイバシティの優先度が下がったからでしょうか?いや、違うでしょう。女性や外国人、高齢者といった「多様な人々」をいかに企業に取り込むか、個別具体策がどんどん動き出しているからだ、と思うのです。そうしたなか、真のダイバシティ実現のために、われわれがその存在を忘れてはならない人たちがいます。障がいのある人たちです。
今回の執筆はHRmics副編集長の荻野です。※2012/11/15の記事です。

法定雇用率、来年度から2.0%に上昇

障がい者雇用といえば、まず思い浮かぶのが法定雇用率だろう。ご承知の方が多いかもしれないが、来年4月から、一定規模以上の民間企業に課せられるその数字(=その値以上の障がい者を雇用しなければならない)が現行の1.8%から2.0%に上がる。

法定雇用率は、「(失業者を含む)労働者の総数に占める、(失業者を含む)身体障がい者および知的障がい者である労働者の総数の割合」を基準として設定される。こうした数字を定め、企業に遵守させる意味は、「一般労働者と同じ水準の雇用機会を、障がい者(この場合は身体障がい者、知的障がい者のみ。精神障がい者は除外されていることに注意)にも保証する」ということに他ならない。

政府は5年ごとにこの数字を見直す必要があり、今年5月に決まった今回の見直しは2007年以来のことだ。

2.0%への上昇によって、これまでは従業員56人以上に限られていた対象企業規模が50人以上になる。今までは免除の対象だったが、今回から組み入れられる50人から55人の中小企業にとっては新たな対応策が求められる。

実際のところ、この数字は守られているのか。

答えは否である。たとえば2011年の法定雇用率は1.8%なのに実雇用率は1.65%にとどまり、法定雇用率未達成企業は45.3%もあった。統計をさかのぼった限りでは、この数字は1979年以来、40%から50%台半ばの間を行き来し、ゼロになったことがない。つまり、未達成が常態なのだ。

それでいいのか、という声が聞こえてきそうだが、ご心配には及ばない。これも人事の皆さんには釈迦に説法だが、従業員200人以上の未達成企業には不足1人分にあたり月額5万円の「障害者雇用納付金」というペナルティが課せられる。集まったお金は、超過1人当たり、月額2万7,000円が達成企業に支給(200人未満の場合は同2万1,000円)されるとともに、障がい者雇用を促進させる各種助成金の財源にあてられる。この仕組みあっての、法定雇用率なのである。

増える精神障がい者雇用

ではどのくらいの数の障がい者が、現在、民間企業で働いているのだろうか。2011年のデータで、36万6,199人。これは過去最高の数字である(厚生労働省「障害者雇用状況」)。

内訳は、身体障がい者が約77%と圧倒的多数を占め、次が約19%の知的障がい者、一番数が少ないのが約4%の精神障がい者だ。なぜ精神障がい者の数が少ないのかというと、2005年までは、精神障がい者を雇用しても法定雇用数にカウントされなかったから。翌年からカウントされるようになり(後述するが、義務化されたわけではない)、数が増え始めた。

精神障がいとは、脳および精神の機能的・器質的疾患によって生じ、うつ病、そううつ病、そして統合失調症が三大疾病である。

もともと精神障がい者と身体障がい者の数はそんなに違わないのに、なぜ雇用の面ではこんなに大きな違いができるのか。最大の理由は、実情はともかく、「精神障がい者は雇用管理が難しい」と多くの企業が考えているからに他ならない。

さらに、こうした精神障がい者が外に出て働くということに対する誤解や偏見が世間に色濃く存在するため、本人がなかなか働こうという気になれないことも阻害要因となっている。

でもこんな現状が明らかに変わり始めている。

以下の表は、障がい者区分ごとに、ハローワークを通じた新規求職申込件数(=「働きたい」という障がい者の数を表す)を年次推移で見たものだ。

表1:ハローワークを通じた新規求職申込件数

ご覧のように、新規で「働きたい」と考えている身体障がい者の数は長期安定、知的障がい者の数は漸増、に留まるのに対して、精神障がい者の数はまさに鰻上りだ。2011年は前年比で23.0%も伸びている。

実際の就職件数も、下表にある通り、リーマンショック、東日本大震災をものともせず、右肩上がりで伸びている。2011年は前年比29.5%の伸びだ。

表2:ハローワークを通じた就職件数

この背景には、①「働きたい」という精神障がい者が増えている、②企業が積極的に受け入れるようになってきている、③障がい者を支えるジョブコーチ、支援団体などの活動が功を奏している、④よい薬が発明されるなど、医学の発達がめざましい、といったさまざまな事情が考えられる。障がい者本人はもちろん、社会にとっても喜ばしいことだ。

精神障がい者の雇用義務化が指呼の間に

この事態は今後、ますます進展しそうだ。

というのも、この8月、厚生労働省が組織した研究会(「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会」)が発表した報告書に、〈精神障害者の雇用環境は改善され、義務化に向けた条件整備は着実に進展してきたと考えられることから、精神障害者を雇用義務の対象とすることが適当である〉という文言が挿入されているのである。

これに従い、この9月から労働政策審議会の専門分科会が開かれ、精神障がい者の雇用を義務化する(=法定雇用率算定の対象とする)障害者雇用促進法の改正案が議論されている。早ければ来年の通常国会に法案が提出され、そこで可決されれば、2014年4月から改正法が施行される可能性がある。そうなると、「働きたい」という精神障がい者の数が、法定雇用率算定の対象となるから、結果として、値の上昇が確実だ。

ただ、先に紹介したデータ通り、これまで「働く障がい者」といえば、身体障がい者が圧倒的多数を占めていた。そこに、精神障がい者という新たな働き手が多数加わる可能性があるわけだが、採用を含め、精神障がい者の人事管理はどうあるべきかをよくわかっている企業は少ないのが実情だ。

精神障がい者を雇うメリットとは

そんななか、リクルートスタッフィングが、今年4月から、精神障がい者を企業に斡旋、もしくは紹介予定派遣を行うアビリティスタッフィングという新事業を立ち上げている。職種は事務職をメインとしたオフィスワークで、その多くが事務アシスタント。現在、症状が安定している20代から40代の精神障がい者、約2,000名が登録し、就労先を探している。

同事業では、対象者を紹介して「終わり」ではなく、実際の職場向けに、精神障がい者が働くことに関する理解を深めるセミナーを行ったり、専門家による就業後のフォローなどにも力を入れたりしており、結果、9割を超える紹介者が安定的に働いているという。事業責任者をつとめる同社マネジャー、川上祐佳里氏によると、精神障がい者を雇用するメリットは次の三つに集約できる。

一つは、身体障がい者、知的障がい者のうち、働ける人は既に働いている例が多く、「ふさわしい人材」を探すのがかなり難しくなっているが、精神障がい者は雇用義務の埒外に置かれていたため、「ふさわしい人材」を採用することができること。

二つは、特に身体障がい者の場合、床の段差をなくす、といった職場のバリアフリー化が必須だが、精神障がい者には特にそれは必要ないこと。

三つは、精神障がい者には高学歴で優秀な人材が多く、仕事の与え方の工夫によっては、大きな戦力になってくれる人がたくさんいること。

鍵になるのは、そう、人事管理、仕事管理をどう進めるか、という点だ。

そのためには、職場の仲間が、本人を理解することが必須となる。

見かけは健常者と同じでも、精神障がい者は緊張度が非常に高いため、仕事に慣れるまでに時間がかかる。最初の1ヶ月は職場に慣れる時期で、ある程度、仕事ができるようになるには、早い人で3ヶ月、遅い人で半年間が必要だという。

職場が本来の姿を取り戻す可能性

病気に対する正しい理解も必要だ。

「同じ精神障がいといっても、うつ病と統合失調症では、業務上、配慮するポイントは異なります。たとえば、うつ病の人はまじめな性格のため、業務を『抱え込む』『断れない』『やりすぎる』傾向がある。そういう人には、時間を区切って仕事を与えたり、今日はここまでにして帰ろう、と声をかけてあげたりすることが大切です」(川上氏、以下同)

統合失調症の場合はどうか。「統合失調症とは、思考や行動、感情を、ある目的に向かってまとめる能力が低下する病気です。そのために、物事の優先順位づけがうまくできない、明確な指示がないと仕事が滞るなど、曖昧な状況で困惑する、といったことがおきます。反面、定型化された仕事には大きな力を発揮してくれます。同じように会社の数字を扱う仕事でも、財務よりは、ルール化が徹底している経理の仕事のほうが合うようです」

さきほど、精神障がい者を雇用するメリットを三つあげたが、どうも、もう一つあるようだ。それは、職場が本来の職場の姿を取り戻す、ということ。うつ病の人には仕事の時間管理が、統合失調症の人には業務の定型化が必要、と書いたが、それは何ら特別なことではない。相手が障がい者でなくても、仕事を割り振る人間なら備えておくべきスキルとモラルに他ならない。

理想は本人、企業、社会の「三方よし」

そうだとすれば、不機嫌な職場が精神障がい者の雇用で変わるかもしれない。障がい者が、ぎすぎすしがちな職場を変える可能性があるのだ。一方、企業は精神障がい者にも雇用を生み出すことでより大きな社会的責任を果たすことになる。本人は仕事を通じて堂々と社会参加し、そのことが社会経済の発展を促進する。そうした「三方よし」が実現できたら、理想的だ。

障がい者雇用というと、これまでは特例子会社をつくり、障がい者のみで仕事をしてもらう方式をとる企業も多かった。ところがそれは身体障がい者、知的障がい者向きのやり方だったのだろう。これから重要なのは、既存の職場と障がい者をいかに共存させるか、ということではないか。

わが国最初の障がい者雇用促進施策であり、身体障がい者の雇用義務化を定めた身体障害者雇用促進法が制定されたのは1960年。そこから半世紀を経て、障がい者雇用のあり方が大きく変わりそうな気配だ。

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