派遣法再改正の動きを追う-3つの調査比較から見えてくる「派遣労働者の実像」(前編)

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派遣法再改正の中身をつめる動きが着々と進んでいます。

前回に引き続き、4月23日に行われた同会に関連するレポートです。
厚生労働省が昨年10月から開催している「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」。今回は、当日配布された資料、すなわち、派遣制度の実態を把握する目的で、この会のために昨年12月に厚労省が実施した調査の中身を、他の調査と比較したうえでHRmics副編集長、荻野が読み解きます。※2013/05/30の記事です。

紙調査、ネット調査、そしてJILPT調査

その調査は、派遣会社対象、派遣労働者対象、派遣先対象という3つにわかれる。今回、俎上に載せるのは有効回答2,088の派遣労働者向け調査である。派遣会社を通じた紙による郵送方式で行われたので、以下、「紙調査」と呼ぶ。

当日配布はされなかったが、厚労省がこの研究会のために、ネットを通じて行った派遣労働者向け調査がもう1つある。こちらは20歳から69歳の派遣労働者、4,000名が回答している。調査内容は「紙調査」とほぼ同じだが、違う項目もある。こちらを「ネット調査」と呼ぶことにする。

「紙調査」と「ネット調査」、いずれも2012年12月に行われたが、何が違うのかというと、回答者の現在の派遣形態である。「紙調査」は常用雇用型が65.9%、登録型が23.2%(わからない・不明10.9%)、「ネット調査」は常用型が53.4%、登録型が41.3%となっている(不明5.4%)。

さらにもう一つ、最近行われた、派遣労働者に対する似たような調査がある。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2010年2月から3月にかけて行った「派遣社員のキャリアと働き方に関する調査」(以下、「JILPT調査」と呼ぶ)である。こちらは有効回答が4,473で、そのうち、常用型が43.4%、登録型が56.5%である。

3つの仮説を検証する

2010年の厚生労働省の調査によると、約148万人いる派遣労働者(常用換算)の内訳は、常用雇用型労働者が約94万人、登録型労働者は約54万人となっている。比率は64%が常用、36%が登録となる。

この数値からすれば、3調査とも、回答者の状態が現実からは少し離れているといえるだろう。常用型についてはJILPT調査が最も現実に近いが、「不明」が1割を超えているので、もしかしたら、もっとぶれているかもしれない。

ご存知のように、常用型は派遣会社の正社員に近く、派遣といっても雇用が非常に安定している。このことが調査結果にどのような違いをもたらしただろうか。以下、この3つの調査を比較検討していこう。

といっても、さすがに紙幅が限られており、ただでさえ膨大な調査を逐一、参照して掲載するわけにもいかない。そこで、以下のように考えた。

今回のお題である厚労省実施の「紙およびネット調査」は、今の派遣制度のあり方を点検するための材料となるべきものだ。そうだとすると、現行派遣制度の欠点を突くのが目指すところと考えていい。つまり、「派遣欠陥論」の補強材料である。その具体的中身は、「派遣では十分なお金が稼げないはず」、「雇用が不安定なはず」、「派遣という働き方に対する不満が高いはず」、この3つくらいに集約できるのではないか、と考え、その観点から3調査を比較してみた。

年収は本当に12ヶ月分なのか

まずは派遣就労によって得られる年間収入から見てみよう。

「紙調査」では、過去1年間の派遣による収入は「200万から300万円未満」が28.5%と最も多く、次が「100万から200万円未満」(16.7%)である。

「ネット調査」でも同様の傾向で、最も多いのが38.1%の「200万から300万円未満」で、次が「100万円から200万円未満」(25.2%)である。

「JILPT調査」でも、1位が「200万から249万円」(28.5%)、2位が「250万から299万円」(17.2%)とあまり変わらない。

これを「低い」と見るべきだろうか。いや、そうとは単純には言い切れない。これらの調査で疑問なのは「通年で働いていたのかどうか」という部分を考慮していない点である。派遣社員は結構、転職や派遣先が入れ替わることが多く、就労ブランクが長い人も多い。つまり、年収を聞いた場合、「現状の給与×12ヶ月分」という額よりも相当低い可能性があるのだ。

さらにいえば、収入の問題を見る場合、稼働日数も見なければならない。全員がフル稼働で働いているわけではないからだ。

「紙調査」の場合、1ヶ月あたりの就労日数は「20日超」が57.5%と1位で、2位は31.2%の「15日超20日以内」となっている。

「ネット調査」も同様で、「20日超」が圧倒的1位(60.6%)、次が大きく差が開いて「15日超20日以内」(28.4%)となっている。

「JILPT調査」は1ヶ月ではなく1週間単位で聞いており、「5日」が88.8%と圧倒的に多い。

やはり月換数でいえば、「20日超」が最も多いということだ。

とまれ、これらの就労日がすべてフルタイム就労とは限らない可能性も勘案すると、「派遣は賃金が低い」とは必ずしもいえない。

派遣といっても「期間の定めのない雇用」も多い

次に雇用不安について見てみよう。

派遣の場合、雇用不安の原因といえば「契約期間の短さ」がよく指摘される。そこで、「派遣会社と結んでいる雇用契約期間」を3調査で比較してみる。

それぞれ上位3つをあげると、「紙調査」の場合、「期間の定めなし」(34.8%)、「30日超3ヶ月以内」(20.0%)、「6ヶ月超1年以内」(15.6%)の順であり、「ネット調査」では「30日超3ヶ月以内」(32.4%)、「期間の定めなし」(21.3%)、「3ヶ月超6ヶ月以内」(18.0%)、「JILPT調査」では「3ヶ月」(30.9%)、「期間の定めなし」(25.3%)、「1年」(13.6%)となっている。

「期間の定めなし」の割合が結構多いことがわかる。派遣会社の正社員ということである。

これは「JILPT調査」のみだが、「将来の雇用不安」についても直接聞いている。

「不安である」と答えた人が41.3%、「少し不安である」が26.9%となっており、これを合わせた「不安あり」は68.2%、「不安はない」「あまり不安はない」を合わせた「不安なし」は12.4%となっている。

これを深堀りして、登録型と、期間の定めのある常用型、同定めのない常用型でクロス集計したのが下の表である。

図表1:将来の雇用不安(%)

登録型よりも常用型、さらに同じ常用型でも、期間の定めがないほうが雇用不安が低減することがわかる。

「不明」が多いのは回答ミスの可能性

次に、雇用不安を和らげるセーフティネット、つまり社会保険や年金加入状況について見ておこう。

派遣というと、雇用保険も健康保険もなくて身分が不安定というイメージがあるが、実際のところ、どうなのか。

実は「紙調査」、「JILPT調査」では、派遣労働者向け調査に加え、派遣元(会社)、派遣先への調査も行っている。そのうち、「紙調査」で、「派遣就業中の派遣労働者のうち、雇用保険、健康保険、厚生年金保険に加入している人の割合」について派遣元が解答した表1から3である。

図表2:派遣就業中の派遣労働者のうち「雇用保険」に加入している者の割合(%)

図表3:派遣就業中の派遣労働者のうち「健康保険」に加入している者の割合(%)

図表4:派遣就業中の派遣労働者のうち「厚生年金保険」に加入している者の割合(%)

派遣労働者は派遣元のれっきとした社員のわけだが、ご覧のように、「不明」が非常に多く、しかもその値が一致している。

こういうデータを見ると、派遣という働き方はやはり不安定なのだと考えざるを得ないが、念のため、「JILPT調査」(派遣元対象)を見ると、雇用保険の平均加入率が常用型の場合は96.61%、登録型では79.88%、健康保険の平均加入率は同じく91.81%、71.22%、厚生年金の平均加入率も91.62%、71.24%となっている。この数字を見ると、「紙調査」における「不明」の多さには狐につままれたような感じがした。派遣会社の記入ミスか、集計の間違いとしか思えない。

当の派遣労働者に聞いた「JILPT調査」でも、健康保険には84.5%、雇用保険には81.1%、公的年金に関しても派遣元の厚生年金への加入率が77.8%となっているのだから。

ただ、雇用保険や健康保険は、雇用期間が短期であったり、1週間の労働時間が少ない場合、加入義務はない(その多くは学生や主婦)。それを考慮すると、実際に必要なセーフティネットから外れている派遣労働者の割合はさらに下がるだろう。

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