女性クォータ制の先にあるものとは?-見えてきた日本独自のワークライフバランス

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「ソフト」面に焦点を当て、女性活用に関する構造的問題と変化の方向性を考えてみます。

前回は、取締役や社長などの重要ポストに、一定の女性比率を義務付ける「クオータ制」の現実的なあり方をお伝えしました。そこでは拙速を避け、その分、確実に指導的立場の女性を増やす道筋が、マクロデータを基本に説明されていました。ただ、現実を考えると、そうした変化を取り巻く経営者や働く人たちの「気持ち」が変わらなければ、女性活用は前には進みません。今回もレポートはHRmics編集長の海老原嗣生です。※2013/09/19の記事です。

「女性登用が進む中小企業」の現実

さて、今回は、前回よりもより踏み込んで、女性のキャリアとライフイベントについて考えていきたい。

実は、職場での女性の活躍度合いを見るとき、昇進昇格に関しては大企業よりも中小企業の方が進んでいる、というデータがある。

図表1:企業規模と女性管理職比率

最近、その差は埋まりつつあるとはいえ、役職者比率を見る限り、過去から現在まで、明らかに規模が小さい企業の方が、女性が活躍しているように見える。しかし、だからといって、中小企業が積極的に女性を受け入れているとは言い難い。取材で会った多くの中小企業経営者は、「できるならば、育休や産休などを取らない男性を採用したい」と口々に言う。それは、女性社長であってもそうだった。

にもかかわらず、中小企業には男性の応募者が集まらない。結果、消去法で女性を採用する。そういう女性が長期勤続してくれた暁には、その人に代わる人材を新たに採用も育成もできていないため、昇進昇格してもらうことになる。こんな形の登用だから、当の女性本人は、産休も育休もまともに取れず毎日へとへと、「大企業の方がどんなによいか」と口々に語る。

つまり、中小企業では、消去法で女性登用が進んでいる、というのが私の見てきた実感だ。

企業が大きかろうが小さかろうが、結局、経営合理性ばかりが優先されて、女性のハンデについて、真剣に考える風土はない・・・・・・これが日本の現実なのだろうか。

議論の的となった曽野論文

こんな話に、輪をかけるような辛辣な記事が、『週刊現代』(2013年8月31日号)に作家の曽野綾子さんからの寄稿という形で掲載された。

その内容たるや、まずは、セクハラやパワハラ、マタハラを訴える女性社員を「甘ったれ」と切り捨て、「出産したらお辞めなさい」と過激な見出しが立つ。続いて、「経済の単位である会社には、男も女もない」。赤ちゃんが発熱したのを理由に、母親社員が早退するのを毎度快く送り出せる会社ばかりではない、と続ける。

産休制度でさえ「会社にしてみれば、本当に迷惑千万な制度だと思いますよ。~中略~ 男女は平等であるべきなんです。『女子だから』と自分たちを特別扱いすることを要求し、思い通りいかなければパワハラだと騒ぐ女子社員がいると、会社は懲りて自然に女性を雇わなくなりますよ」

曽野さんのこの寄稿に対しては、ネット上に賛否両論が踊った。その数は、やはり良識派の「否定的意見」が多いようだが、しかし、「口に出せない私たちの本音をよくぞ言ってくれた」という賛成派の数も少なくはない。しかも、そうした賛成派は、経営層や年輩男性だけでなく、なんと、未婚やDINKSの女性からも寄せられる。世間体を考えて口には出さないが、そう考えている、という人は意外に多いのだろう。

さて、ここまでを整理してみよう。

  • ・企業はライフイベントコストを考えると、女性を採用したがらない
  • ・出産や育児期の企業負担について、周囲はよい顔をしていない
  • ・ただし、あからさまにそれを言うと「理解がない」と批判されるため、口には出さない

こんな不健全な状態が浮き彫りになる。この状態は何とかならないものなのか。

なぜ、日本では出産女性に風当たりが強いのか

そこで、すぐに頭に浮かぶのが、欧米(とりわけ欧州)の話となる。

向こうでは、男性社員とて残業は少なく、有給もほぼ100%取得が可能。彼らはけっこうな割合でイクメンにもなる。

そのうえ、育休や産休、保育ママなどの制度も浸透していて、働く女性をサポートしてくれる。だから、出産女性も、無理なくキャリアが続けられる・・・・・・といった、よくある欧米礼賛論だ。

しかし、欧州でも日本でも、企業は経営合理性を重視することに変わりはない。にもかかわらず、なぜ欧州ではこんなにも女性に対して理解があり、片や、日本にはそれがないのか。

その理由は、彼我における倫理感の差に求める意見もあるが、私は全く異なる見方をしている。

この連載でも何度か触れた話なのだが、もう一度、説明しよう。

欧米のこうしたワークライフバランスが整った生活をしている労働者は、そのほとんどが昇進コースから外れた人たち、という現実がある。性別関係なく、男性でもこうしたヒラコースをたどる労働者は多い。彼らは給与もそれほど上がらないし、もちろん、役職者にもなれない。そういう、一生ヒラコースを歩む社員が、欧米にはことのほか多い。

いや、一部エリートが猛スピードで出世の階段を駆け上り、普通の人はヒラのまま、と書いた方が現実に合っているだろう。日本のように、年齢とともに大方の人が役職者となり、昇進できない場合でも、給与だけは、若年時の2倍以上に上がっていく、というキャリアは用意されていない。役職も給与も上がらない彼らなら、会社も長時間労働を課さず、有給取り放題でも、経営合理性を保てるだろう。そうした人たちがワークライフバランスが整った生活をしているのだ。

一方で、欧米では大手企業で取締役になるようなスーパーウーマンも存在する。彼女らは、日本人同様に死ぬほど働いている。しかも、長期間の育休や短時間勤務などをとっているわけではない。史上最年少でフォーチュンの「世界の最もパワフルな女性50人」に選ばれたヤフーCEOのマリッサ・メイヤーが、「育休は2か月にすべき」と発言したことなどが思い出されるだろう。スタンフォード大学を優秀な成績で卒業し、イリノイ工科大学の名誉博士号を持つ彼女のような女性が、いわゆるエリートの階段を昇る。彼女たちは、育児や家事をシッターに任せ、仕事に没頭する。

欧州のエリート女性の働き方とは

ここまで書くと、「いや、そんな自力救済型キャリアは、アメリカの話であり、欧州では、社会システムにより、働く女性の支援が行われている」と反論する人もいるだろう。

確かに、保育ママや各種給付で支援を受けられる欧州は、進んでいるかもしれない。しかし、そうした支援を受けても、結論はあまり変わらないだろう。

エリート女性は、支援を受けて、やはり、長時間労働をしているのだ。その様子を図表2にまとめてみた。

フランスのエリート層(カードル)の就労実態(%)

これはフランスのエリート階層である「カードル」たちの勤務状況を表したものだ。1日10時間以上働く人の割合がほぼ3割(その他にビジネスランチが2時間!)で、しかも、恒常的に7割の人が日曜日に仕事をしている。だから、家族との時間に不満という人が6割を超え、さらにこの割合を女性に絞って聞くと、8割近くが不満となる。「ワークライフバランス大国」「週労働35時間」と言われるフランスのイメージとは、全く異なる世界がそこにある。

これが現実なのではないか。

つまり、ワークライフバランスをとれば、昇進昇給は望めず、一方で、キャリアを取るならば、女性でも育児家事を捨てる、という二者択一で、経営合理性を保っているというのが現実なのだ。

三方一両損で全員階段を上る仕組み

日本企業は、全員一律で皆が階段を昇る構造を捨てない。

でも、そうすれば、女性は育児でそのコースからトラックアウトを強いられる。旦那となる男とて、階段からトラックアウトしたくないから、男女共同参画など進みはしない。もし、そんな中で女性がキャリアを求めるなら、家事も育児もしながら、しかも仕事を持ち帰り、深夜早朝の空いた時間に残務をこなすのか。かつて私はその様を、「限界ウーマン」と呼んだ。

しかし、それ以外に、新たな道がうっすら見え始めた。

大きな組織で、大きな仕事をこなすためには、10年以上の習熟が必要となる。そうした経験を有する稼ぎ手の女性が育児退職することを、企業は損失と考える。だから、彼女らのキャリアを何とか伸ばそうと会社も知恵を絞る。

そこで、いくつかの変化が生まれ始めたのだ。

たとえば、今までなら、係長は30代中盤まで、課長も40代中盤までに、といった年次管理を行っていた企業が、そこに幅をもたせ、「係長は40歳位までに」「課長も40代のうちに」と遅れを認めるようになってきたこと。一律昇進でそこから外れたら「将来はない」というような形式から、時間的な猶予が認められるようになってきたのだ。

また化学系の某大手企業では女性のキャリアに配慮し、地方勤務や営業といった出産・育児と両立が難しい職務は、20代の独身時代に先に経験させるという先憂後楽の仕組みを導入したりもしている。

社内結婚比率が非常に高い電気系の大手企業では、そうした社内結婚組の妻の上司が、夫の上司に対して、「私の部下だけが家事や育児のため、早帰りを強制されるのはおかしい」と不満を訴えるケースが増えた。それを解決するために、社内結婚組の上司同士が話し合いの場を持ち、早帰りを夫婦で分担する仕組みが生まれたりもしている。

そんな感じなのだ。

ある家電系大手の人事部長が私にこう言ったのを記憶している。

「欧米と日本ではワークライフバランスの意味が違うのではないでしょうか。欧米流のワークライフバランスとはとにかく余暇を充実させることです。それに対して、私たち日本企業のワークライフバランスは仕事のサポートに主眼がある。つまり、思いっきり仕事をしたいけれど、私生活に何かしらの問題を抱えている社員を助け、働きやすくさせるというのがその主旨なのです」

まさに、至言だろう。

その先には、夫婦で家事育児を分担し、さらに「働く人への応援」としてのワークライフバランスを企業が用意し、三方一両損で、なんとか皆が階段を上り続けるという、「新たな日本型」があるのではないか。


もともと戦前は、日本もエリート・ノンエリートに分かれた2層構造(職工身分制という)だった。それが、戦中から戦後の動乱を経て、奇跡的に世界でもまれな「一層構造=全員が階段を上る」仕組みへと生まれ変わった。このキャリアコースは、多くの労働者に夢を与え、経営にも、やる気と活力という好材料をもたらした。その様を、外からは「社畜」と揶揄されようが、欧米や戦前の日本のような階層構造よりは、やはり心地いいのだろう。

だから、企業はそう易々とこの仕組みを捨てはしない。

そのコンテクストの中で、階段を上って高みを知った女性を放逐するような無駄も、今後はより一層、なくしていくのだろう。

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