今回のレポートは少し趣向を変えて、各業界の大手企業の新卒採用活動の現場で、採用ツールやクリエイティブなどが、景況とともに変化している様子をHRmics編集/渡邉がレポートします。
新卒採用の場合、学生に向けてどのようなメッセージを放っていくのかが、採用活動における重要なポイントとなる。
毎年夏ごろからそのメッセージの根幹部分となる「採用コンセプト」の打ち合わせが始まるわけだが、採用担当者は次のような課題に頭を悩ませることになる。
大量募集で数を集める好況期採用と異なり、精鋭を選び抜くというのが、現在の主流。つまり、量から質、という当たり前の変化となる。
それにしたがって、採用コンセプトも当然パラダイムチェンジが必要となる。
では、ここでいう「採用コンセプト」とはどのような意味合いを持つのか。
それは、まだ就業経験がない学生に対して、その企業にしかない特色(事業領域、社風、教育制度など)や、明確な採用方針を伝えることで、学生が企業研究を行う際に「どんな特徴があり、何をやっている企業か」を知るきっかけを生み出すことができ、もう一歩進めば「自分にマッチする企業か」を判断する重要な材料となる。
その企業に興味をもつ学生が集まり、母集団形成につながる一方で、全くマッチしない資質を持つ学生に自ら身を引いてもらうセルフ・スクリー二ング効果もある。
そのため、「採用コンセプト」は新卒採用にとっては重要な要素の一つであり、毎年人事部が時間をかけて作りあげていくことになる。
まず、「採用コンセプト」の第一歩は、「求める人材像」=ターゲットを決めることから始まる。
大手企業では認知度が高いがゆえに、逆に「求める人材像」が伝わりにくい、というジレンマもある。そう、商品やCMでのイメージ=求める人材、と勘違いされてしまうからだ。そこで、そうしたブランドイメージと、求める人材像の違いを明確にする、ということが重要な課題となってくる。
ここではその手法について、外食、商社、印刷・出版業界の大手3社の具体策を紹介しよう。
例えば、外食業界大手のA社。数年前までは新卒入社の正社員は「店長候補」と見なされていたため、対人折衝能力はもちろん、数十名のアルバイトを統括する責任者、店舗を運営する経営者として早期に活躍できるかどうか、が問われていた。
そこで、ブランドイメージにある「接客業務の楽しさ」を前面に出すだけではなく、「教育に関わりたい」と思う学生や「将来起業してみたい」と思う学生にも、そのチャンスがあるという切り口でメッセージを作り、幅広い志向の学生を集めて母集団を形成していたのだが、ここ2、3年で求める人材像が変化した。
それは、直営店舗とフランチャイズ店舗の比率を大幅に変えていく経営方針となったからだ。以前のA社は出店しているほとんどの店舗が直営だったのに対し、最近は大幅にフランチャイズに変わってきている。それに伴い、フランチャイズオーナーに企業ブランドを理解してもらい、その価値を維持してもらうための「マネジメント力」と、新規店舗をできるだけ立地条件の良い場所に設立するための「営業力」の強化が改めて社員の課題となった。
この動きは新卒採用の「ターゲット」にも直結する。端的に言えば、「接客の楽しさ」よりも、「経営・コンサルティング志向者」が強く求められるようになったのだ。浸透しているブランドイメージや従来の採用像とは、ギャップが生まれる。普通に広告を打っても、なかなか学生たちの認知は変えられないだろう。
そこで、「サービス業人材から経営人材に脱却するためのアプローチ」を基軸にして、採用コンセプトは、「生で伝える経営人材の重要性」とした。そのコンセプトに沿い、社長自らが学生向けに独自のセミナーを開き、A社の方向性を伝えていくなどといった、採用戦略が繰り広げられている。こうしたターゲット層が大幅に変わる場合には、従来のターゲットイメージを払拭するため、生で伝えるというコンセプト(手法)が奏功するのだろう。
次に、大手商社B社。もともと人気企業のため、毎年数万名の学生が応募をしてくる。その中の数百名に内定を出していくのだが、土壇場になって全く違う業界の他社に行ってしまうというケースも頻発し、「商社に強くロイヤリティを感じる人材」選びが課題となっていた。
そこで同社は、好業績社員にアンケート調査を実施し、他業界、とりわけ内定者が流出した競合企業とどこが違うのか、少し踏み込んだ内容でヒアリングを重ねていくことにした。商社ビジネスの楽しさだけでなく、厳しさももちろん包み隠さず明らかにしていく。単に「商社=海外で働ける」などといった短絡的なイメージで学生に興味を持ってもらうのではなく、海外だからこそ日本の常識が通用しない、極めてシビアなビジネスであるといったことを、リアリティをもって学生に伝えていくためだ。
ここで採用コンセプトが練りあがっていく。「言葉が通じなくても、商品がなくても、ビジネスを作る商社マン」。つまり、厳しい、厳しいからこそ楽しい、という商社マンの実像だ。こちらは、「付和雷同層を削減する」本物選びのための秀逸なコンセプトだろう。
印刷・出版業界のC社も新卒採用に奮闘する大手企業だ。幅広い業界から大量の印刷業務を請け負うためか、昨年までは大きな組織の中で実直・正確に業務を遂行できる人材が求められていた。確かに、社員の中にはそのような志向を持つ人材が多い。
ところが、紙媒体主体の世の中から電子媒体などメディア多様化の時代に移り変わり、C社の業務も時代の波の影響を受けて印刷請負から、メディア提案型へと変遷してきた。受注した仕事を正確に遂行するだけではなく、自らが動き、仕事を生み出す方向に舵を切り始めたわけである。
こうなると、従来とは異なるタイプの人材も必要となってくるわけであるが、長年実直なイメージを保ち続けてきただけに、提案型業務ができる企業だという認知は学生にはない。
そこで、採用コンセプトを徹底して打ち出そうという動きになった。採用媒体に共通して使用するロゴマークの策定やビジュアルイメージの統一を図り、メディアでの露出を大きく実行する一方、「こういう志向を持つ人材を採用する」という意向を人事部が各事業部の面接官にレクチャーし、徹底したすり合わせを行っている。そう、企業そのものが変わったことを採用を通して伝える「ミニCI※」につながったのだ。
こうして考えると、大手企業・人気企業だからよい学生が集まるということではなく、いかに志向に合った人材を取り込み、しっかりと採用につなげていくかが大きなポイントになることがわかる。
そのためにも「採用コンセプト」の策定を明確に行い、それに基づいたメッセージをつくり、徹底して学生に伝えていく。そして面接時でも、求める人材像にブレがなく採用できる体制を構築していくことが重要となるのではないだろうか。
※・・・CI/コーポレート・アイデンティティの略。
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