「非正規雇用は若者の問題」という過誤

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非正規問題がまたクローズアップされる昨今、本当の問題がなおざりにされそうです。

HRmics編集長海老原嗣生氏の意見は、全く別の観点から発せられています。さて何が問題なのか?※2011/06/30の記事です。

大経済学者も、神話論者

のっけから、大学生の就活に関する2人の経済学者の対談を引用しよう。


太田(聰一、慶應大学教授):一つ考えておかなければいけないのは、卒業時がたまたま不況期だったという、生まれ年による大きな運不運、不公平が実際にあるわけですよね。そういったリスクをどう皆で分担するのか。今は非正規社員の低賃金というようなかたちで、弱いところが完全に引き受けてしまっている状況です。

大竹(文雄、大阪大学教授):技術革新やグローバル化のせいで陳腐化した技能を持った人たちがたくさんいて、その賃金が十分に下がっていないという現状がある。それで若者を採用できない、あるいは非正規でということになって、生産性は高いのに低い賃金になっているというアンバランスが起きていると思いますね。

(11年2月12日号『週刊ダイヤモンド』対談「“就活問題”は日本全体に損失 労働市場の構造改革を進めよ」より引用)


この対談をずっと読んできて、非常に興味深い内容で面白かったのだが、この部分についてのみ、気にかかってしまった。

本当に、非正規は弱者=若者に押し付けられているのか?

端的にデータで示しておこう。10年の労働力調査から以下示す。

非正規社員1,722万人のうち、40歳以上の比率が59%。この中から学生を除くと、非正規1,570万人のうち、40歳以上比率は63%にまで上がる(図1)。あれれ、若者は……。

「非正規は若年の問題」という誤解の図

もう少し細かく労働力調査を調べると、面白いことが見てとれる。1,720万人の非正規をわかりやすいように分類してみたのが、(図2)だ。この中で圧倒的多数を占めるのが女性既婚者=主婦。人数では900万人ちょうどで、これだけで全体の52%を占める。2番目に多い人たちは、60歳以上の定年退職世代で、こちらが257万人(主婦は除く。主婦数推定は概算値を利用)。こちらは非正規の15%を占める。その次に多いのは学生。これは、学生が主なのか、就労が主なのかによって数字は異なるが、両方合わせた学生数は150万人で、全体の9%。この「主婦・高齢者・学生」を足し合わせた総数はなんと、1,307万人、非正規全体の76%を占めることになる。要は、今でも圧倒的多数が、縁辺労働者(この言葉は差別的で申し訳ない)と呼ばれる人たちで、彼らは亭主・親・年金など、自分の収入とは別に主たる世帯収入がある人たちだ。

非正規雇用1722万人の内訳の図

さて、残りの415万人。これも、「昨今急激に増えた人たち」とは言えない。まず、2003~06年に厳しく取り締まられた構内請負業者たちが、その配下の社員の呼称を「派遣」に変えている。これで、正社員身分だった請負社員約30万人が「派遣」に付け替えられている(『雇用の常識、本当に見えるウソ(プレジデント社)』参照)。同様に、かつて「一般職」という名の正社員だった女性事務職は、差別的待遇として訴訟で連敗し、結果、これも「派遣」や「契約」に付け替えられている。両者とも、もともと「差別的」で「違法」の正社員であり、今の非正規とそれほど実情は変わらない。

そう考えていくと、この415万人の中にも、相当、過去から存在した類の人たちが含まれている。

1,700万人の中身は、「神話」的数字であることがよくわかるだろう。

若年非正規でも際立つジェンダー

ここまでわかった上で、若年非正規増加の問題をもう一度考えてみよう。

学生を除いたとしても、20代前半の非正規率は29.5%もあり、これが25~34歳でいったん減少(25.6%)したあと、加齢ともに数字が上がっていく(図3)。非正規カーブは、年齢と正比例しているのがよく見てとれるだろう。なぜ、このようなことが起きるのか?

年代別非正規率

性別や婚姻でばらして調べると、理由がわかってくる。

まず、年齢×性別で見たのが(図4)だが、男女ともに。10代後半、20代前半、20代後半の順で非正規率を見てみよう。男性は、63.6%→35.8%→17.2%とどんどん非正規率が減っていく。一方で、女性は、77.6%→42.8%とここまでは男性同様に急減するが、20代後半では、39.0%男性のような大幅減少は見せない。ここから先。30代前半になるとさらに男性と女性はまったく異なる傾向を示す。男性は11.5%へと引き続き減少するのに、女性は43.7%へと数字を挙げていくのだ。

男女×年代別非正規率の

つまり、34歳以下の俗にいう「若年非正規問題」とは、性別で見れば、男性は年齢とともに次第に解決方向に向かい、女性は、年齢では解決されていないことがよくわかる。

もう、その理由は想像に難くないだろう。が、あえて、もう少し決定的データを示しておこう。

婚姻と年齢・性別を掛け合わせてデータを作ったのが(図5)となる(こちらは学生を除いている。データの出典が「既卒者」のため)。

年代×性×婚姻×非正規率

男性は、15~24歳と25~34歳では24.2%→13.2%と加齢により非正規比率は半減。一方女性は、未婚・既婚とも、加齢により非正規率は上昇。そして、いずれにしても、年齢と関係なく、女性既婚者の非正規率が飛びぬけて高い。前述の、女性非正規率が20代後半から30代にかけて増加していく理由は、既婚率が高くなるためと、容易に推測できるだろう。

さあ、ここまでを整理して見えてくるのは何か?

  • ・男性は、加齢により非正規率が減る
  • ・女性は、どの年代でも男性より圧倒的に非正規率が高い
  • ・中でも、既婚女性の非正規率は群を抜いて高い

要は、男女という根源的な性別の問題があり、次に、家事・育児という後天的なジェンダーの問題が重なり、非正規を生み出す、という古くからの構図がそこにはある。

こんな当たり前の古くからある、「確実」で「大きな問題」をなおざりにして、なぜ「若者かわいそう」という論拠の脆弱な新しい問題ばかり声高に叫ぶのか。

見事なまでに現れる「学歴・性差別」

もう一つ、明らかにはっきりしている非正規要因を挙げておこう。

(図6)は、学歴別に非正規社員の割合を示している。男性の大学・院卒での非正規率は10.8%、高卒以下は21.1%。女性は、同33.5%対60.6%こちらは一目で、そのあまりにもきれいな学歴と非正規率の逆相関関係を目の当たりにできるだろう。

学歴×性別非正規率の図

もう少しこの話を続けていこう。

就業構造基本統計調査(2007年)をもとに、年齢別×性別×学歴別の正社員比率を出したのが、(図7)と(図8)となる。全ての年代で、学歴差と性差がわかるだろう。

男性学歴×年齢別正社員率の図

女性学歴×年齢別正社員率の図

(図9)は、これを大卒男女に絞って再掲したものだ。これを見てどう思うか?

大卒男女の年齢別正社員率の図

20代前半での正社員比率は男性が83.1%、女性が78.8%。社会人の入り口時点では大差がついていない。ただ、男性はここをボトムに、87.8%(20代後半)、92.5%(30代前半)、94.7%(30代前半)と上昇していく。一方で女性は、72.3%→67.7%→66.9%と下降を続け、40代には6割をも割る。

誤解を恐れずに言おう。大卒男子は、83%の正規率さえ低いと問題視されている。ただ、それはこの本を読んだ人ならわかると思うが、以下のような流れといえる。増えすぎた大卒が、従来の採用企業群で受け止められず、入職時点でミスマッチが起きるが、加齢により社会的相場観を知り、最終的に10年かけて、95%近くまで正規率を上げていく、という過程の入り口だ、と。こう書くと「いや、今の30代は恵まれているので、現在20代の人たちが10年後、95%まで正規率を上げられる保障はない」と反論が出るかもしれない。ただ、それなら言おう。今の30代の人たちこそ、「ロスジェネ」と呼ばれ、最悪就職期を過ごした人たちだ。1997年、2002年の就業構造基本統計調査で見ても、当時の20代前半の正規率は今と大差ない(2002年度調査では今より悪い)。にもかかわらず、加齢によりここまで延びている。今の若年男性も30代になるころには、曲折を経て、95%近い正社員比率となっているだろう。

こうして、95%近くまで正規率が上がる男子でも、確かに、残り5%の人たちは問題とはなる。ただ、ここには介護や療養やその他に失業後の一時避難等の自主的理由もあるだろう。そうした事情を抜くと、純粋な恵まれない男性非正規社員はかなり少なくなるのではないか?もちろん、彼らを無視するつもりはない。ただ、30代非正規男性を少なくない数取材してきた私には、その主因が、今の対人折衝主流でストレス負荷の高い殺伐とした社会に馴染まない、心優しさにあるのではないか、と思えてならない。産業構造が農林水産業・建設業・工業・自営業中心から、第三次産業中心へと移行してしまったことが大きな問題なのではないか?それを私は前著でも前々著でも問い続けている。

一方で、同じ男性でも、30代後半でも正規比率が8割台に留まる高卒、7割台の中卒。こちらは、自主的理由などでは片付かない問題だろう。明らかに大きな「壁」がある。

ましてや、女性。男性と全く逆に、加齢で正規率が落ち続けるという動き。そして、大卒でさえ、30代には6割しか正社員になりえないという現状。

マスコミも識者ももう少し頭を整理して考えて欲しい。

若者カワイソウ論で、その第一に「大卒でも正社員になれない」人を対象に置くのか、学歴と性差にあえぐ人たちを念頭に置くのか、を。

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