女性にキャリアがなくて、日本に明日があるか(その1)

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経済の急拡大が牽引したスウェーデン・ノルウェー、不況と国民気質がないまぜとなったオランダ、女性差別への怒りがきっかけとなったフランス・アメリカ

リクルートエージェント発行の人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするHRmicsレビュー(無料セミナー)を開催しています。恒例となりましたが、今回も3回にわたり、最新レビューの概要をお届けします。発表者は同誌編集長の海老原、そして同誌副編集長の荻野です。今回から3回にわたり、荻野がレポートします。まずは日本女性の労働状況をマクロで概観した後、欧米各国で女性の就労が進んだ状況を見ていきます。※2012/04/05の記事です。

あの国の女性はなぜ働き者なのか

日本の生産年齢人口が大変なことになっている。今年、来年、再来年と、毎年100万人ほどが減少する見込みだ。100万人という数字は最近の日本の出生人口にほぼ等しい。3年間の総計300万人というのは大阪市の総人口267万人を上回るほどの大きさだ。

この未曾有の労働力大激減時代を乗り切るためにはいくつかの方策がある。その一つが女性の活用だ。もちろん、日本でも進んでいないわけではない。「以前から比べると、働く女性の数は大きく増えた」と、海老原が下のグラフを示していう。

女性は出産時に仕事から一時離れざるを得ないため、そこだけ労働力率が落ちる。年代別に女性の労働力率をプロットすると、M字カーブが形成される所以だが、それでも、1970年代から比べると、M字の底は大分浅くなり、さらに出産時期が高齢化したため、底自体が20代後半から30代後半に移行している。

表1:女性の年代別労働力率

そう、働く女性の数は確かに増えた。問題はその中身だ。

海老原:「女性雇用者の数は1985年に1464万人だったのが、2010年には2263万人へ、799万人も増えていますが、内訳を見ると、正社員は994万人から1046万人へ、微々たる伸びに留まっているのに対して、非正規社員が470万人から1217万人へ、2.5倍も増えているのが現実です。各方面で何度も言っていることですが、非正規雇用問題の本質は『若者かわいそう』ではありません。『女性かわいそう』なのです」

では諸外国と比較するとどうなのか。女性の社会進出が進んでいる欧米諸国と日本を比べると、日本にはM字のボトムがまだ顕著、という点を除けば、全体の数字は遜色ないレベルまで来ていることがわかる。

表2:欧米諸国との女性労働力率の比較

ところが雇用の質を比較すると、話が違ってくる。欧米どころか、世界との差が歴然なのだ。管理職に占める女性の割合は韓国に次いで低く、さらに取締役の割合になるとわずか1.4%と、その韓国よりも低くなってしまう。

表3:欧米諸国との女性管理職比率の比較

海老原:「欧米は文化や意識が違うから、そもそも古くから女性が働いていたから、という人がいますが、アメリカもヨーロッパ諸国も、女性が本格的に働き始めてから、たかだか半世紀の歴史しかありません。女性の労働力率だけではなく、キャリアの質も高い欧米は、文化や意識のせいでそうなったのではなく、過去、男性と同じ意識で、男性と同等に、女性にも働いてもらわなければ困る社会事情があった、と考えるべきでしょう」

ここで報告者が、HRmics副編集長の荻野に交代する。荻野は、女性労働先進国であるスウェーデン、ノルウェー、フランス、オランダ、アメリカの5カ国それぞれに関して、女性が活発に働くようになったきっかけ、それを推し進めるための基本戦略、具体的な促進策の3つについて報告した。

スウェーデン「誰もが働き、応分の税金を納める」

スウェーデンが大きく変わったのは1950年代である。第2次世界大戦に参戦しなかったため、欧州の復興需要の多くを引き受けるようになり人手不足が深刻になった。それを補うために移民がさかんになり、さらに既婚女性も駆り出された。

もうひとつのきっかけは、1960年代から福祉国家の建設が進んだこと。医療、保育、介護にたくさんの人手が必要になり、多くの女性が吸収されていったのだ。

そうした女性労働を促進するためのムチとして利いたのが個人単位の課税であり、働きに応じた額の年金だった。個人単位の課税は1971年からで、それまでは世帯単位の課税だった。その変更には、「男は外でお金を稼ぎ、女は家で家事労働」という性別役割分担を打破し、女性が自分で稼いだ所得をもとに「経済的な自立を果たしてもらう」という目的があった。

1999年から実施されている新年金制度では、1人ひとりの労働者が、自分の所得の18.5%に固定された保険料を毎年収めることで退職後の年金受給額が決まる。地道に働いて掛け金を納めれば納めるほど後でもらえる額が高くなるという仕組みだ。男女問わず、これが働くことの大きなインセンティブになっている。

一方、そうやって労働者が手にしたお金を税金という形で国家が徴収する。スウェーデンの消費税率は25%、(地方)所得税は平均30%強と非常に高い。この豊富な財源を使って、女性を働きやすくする施策が目白押しなのだ。

例えば480日もある育児休暇である。うち60日がパパ・クォータといって、男性が取らないと権利が失われてしまう。現在、パパ・クォータの期間を育休全体の半分にする案や、3等分し、ひとつはパパ・クォータ、もうひとつはママ・クォータ、最後の1つは妻と夫、どちらが取ってもいいというやり方も検討されている。

興味深いのは「平等ボーナス制度」。育児休業の取得比率を、夫婦の間で等しくすればするほど、税金の控除が受けられる仕組みだ。

荻野:「背景にあるのは、男性にも積極的に育休を取らせることで、育児に多く関わらざるを得ない女性が、勤労生活中に被る不利益を男性にも等しく分担させる、という考え方です。“イクメンはすばらしい”“妻思いで優しい”というレベルの認識にとどまっている日本とは大違いです」

ノルウェー「好景気の人手不足+財政+制度」

今でこそ男女共同参画という意味で、スウェーデンに負けない注目を浴びるノルウェーも、1960年代まで、男尊女卑の国だった。「ヨーロッパのなかで女性が家事労働に携わっている率が最も高い国」といわれていた。

そんな国が変わったきっかけは、1969年、北海油田の発見である。石油を筆頭に、さまざまな産業が起こり、男性だけでは労働力が不足したため、女性の就労が進んだのだ。この豊富なオイル・マネーのおかげで、手厚い女性支援制度が可能になっている。

育休のパパ・クォータ制はノルウェーが発祥の地であり、1993年に導入された。そのおかげだろう、1992年は1.9%だった男性の育休取得率が現在は90%に達している。1日でもとれば育休だが、子どもが生まれた男性の6割が「6週間以上の育休」をとっている。

最近、注目されるのが取締役のクォータ制である。2003年に会社法が改正され、国営企業は2004年から、民間企業は2005年から、取締役会に女性を40%以上おかなければいけないことになった。

2003年、ノルウェーの株式上場企業の女性取締役比率は8.5%だったが、そのおかげで、2010年には44%と世界一になった。当初は経営者団体が反発したものの、女性経営者予備軍のネットワークを自分たちでつくり、専用の教育訓練プログラムを実施するなど、前向きに対処している。

フランス「女性の意識向上と少子化対策」

女性の権利に関してはフランスも保守的な国だった。その背景には、カトリックの保守的な価値観と、1804年制定のナポレオン法典があったといわれている。ナポレオン法典は世界で最初の近代的市民法典だが、「男女平等」という思想とはまったく無縁だった。

意識が変わったのは、1968年に起こった5月革命と呼ばれる左翼運動。これによって、フランス人女性が権利意識に目覚め、精神的にも経済的にも大きく自立を果たす。その結果、「ユニオン・リーブル」と呼ばれる、事実婚のカップルが多いに増えることになる。

この事実婚の流行だけが原因ではないが、1990年代ころから、フランスも少子化に悩まされるようになり、1994年には出生率が1.65まで落ち込んだ。ところが、そこからみごとV字回復をとげ、2010年には2.01まで回復している。

その原動力となったのが、世界で最も充実している「家族政策」だった。その中身は「女性が子どもを産みやすい、子どもをもっても働きやすい」環境づくりである。具体的には、手厚い給付(対・乳幼児、対・家族)と、子どもを受け入れる施設の多様さなど、さまざまな仕組みの双方で、女性を強力に支援している。

荻野:「富士通総研の試算によりますと、フランスでは、子どもが3人成人するまでに、家庭が受け取る給付総額は1271万円。これは日本の288万円と比べて、3.7倍の水準です。これだけお金がもらえればカップルは子どもを産もう、という気にもなるでしょう」

オランダ「不況・税不足・雇用難を三方一両得で解消」

オランダで、女性の労働がさかんになった要因は3つあった。

ひとつは家庭側の経済的要因である。1970年代から経済の低迷が続き、夫の稼ぎだけではやっていけない家庭が急増した。ふたつは企業側の要因である。経済の低迷により、企業も経営が苦しくなって本当は雇用を削減したかったのだ。これを乗り切るために、身分は正社員のままのパートタイマーを増やすことで、社員を解雇しなくても済んだ。もうひとつ、「子どもは宝」「男も子育てに参加する」というオランダ人の気質の存在も大きかった。

これら3つの要因が合わさった結果、実現したのが育児や家事と仕事が両立できる「パートタイム労働」なのである。

その結果、

  • ・父親、母親が共に働きつつ、育児にも参加できる
  • ・企業は人件費が上がらずに済み、必要なときに必要なレベルの人材を確保できる
  • ・政府は失業率を減らすことができ、育児繁忙期は男女ともパートタイマーというカップルが多く、家で子どもを見るわけだから、保育園などのハコモノに過大投資する必要がなくなる

という「三方一両得」が実現した。

アメリカ「女性施策の基本は企業の自助努力」

アメリカでも、1950年代までは、「20歳までに結婚して郊外の美しい家に住み、夫と子どもの世話にいそしむ」という専業主婦が女性の理想だった。

それが崩れたきっかけは、1960年代の女性解放運動。黒人の公民権獲得運動に参加していた女子学生らが、その運動自体が男性に支配され、女性がないがしろにされていることを不満とし1967年に女性解放運動を組織したのだ。

そうやって形になったアメリカのやり方はヨーロッパとは違う。厳格な法化社会に「女性差別厳禁」というルールを織り込んだのだ。違反したら、集団訴訟が起こされ、負けたら、巨額の賠償金を支払わされる、というムチが控えている。

たとえば1996年、日本の大手自動車会社が従業員からセクハラで訴えられた事件があったが、和解金は何と3400万ドルにのぼった。こういう訴訟が起こされないよう、企業が女性差別に関して非常に敏感になり、結果として、それが女性の地位向上につながっていった。

アメリカは実は国民に冷たい国である。連邦レベルの育児休暇制度は存在するものの、自分が病気になった場合や親の介護にも適用されるもので、その期間は最大12週間、しかも、ほとんどの州でその間は無給となっている。

その代わり、1980年代から、優秀な女性を辞めさせないため、独自の保育所や短時間勤務制度、手厚い育児手当を用意する企業が増え、それらはファミリー・フレンドリー施策と呼ばれるようになった。この動きに複数のNPOやメディアが着目し、ランキングをつくって表彰したところ、「他社に負けたくない」と、制度を充実させる企業が増えていった。2000年頃を境に、名称が「ワーク・ライフ・バランス」に変わり、男性も含む、より広い概念になっていった。


経済の急拡大が牽引したスウェーデン・ノルウェー、不況と国民気質がないまぜとなったオランダ、女性差別への怒りがきっかけとなったフランス・アメリカ、と、女性の社会進出が進んだ各国の事情を概観してきたが、少子化による「労働力大減少」に悩む日本、そして日本企業はこれからどうすべきか。次回、お伝えしたい。

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