人事必読本レビュー:小池和男著/『強い現場の誕生 トヨタ争議が生み出した共働の論理』

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日本企業が海外で勝つために、自分たちの遺産(=強み)を再認識すべきという憂国の思い。

実務にお忙しい人事の方向けに、世にあまた流通する人事に関連する書籍の中から、新刊を中心に、HRmics編集部が特に推薦したい書籍を選び、その読みどころをご紹介いたします。HRmics副編集長の荻野が担当いたします。※2013/10/03の記事です。

戦後労働史の謎

人事必読本レビュー:小池和男著/『強い現場の誕生 トヨタ争議が生み出した共働の論理』

あらゆる本にはジャンルというものがある。フィクション、ノンフィクション、小説、エッセイ、学術書、図鑑、写真集などと呼称される。では本書のジャンルは何か、と問われた場合、迷わず「ミステリーだ」と答えたい。

いや、難解な密室トリックや髪ぼさぼさの名探偵が現れるわけではない。材料はあくまで「事実」に即しているのだが、誰もが当然と思っていた“通説”を鮮やかに切り崩していく。そのやり口が上質な知的ミステリーそのものなのだ。「優れた読み物は、ある面で必ず謎解きの要素を備えている」。誰が言ったか忘れたが、そういう意味での「ミステリー」なのである。

さて、本書で小池“名探偵”が挑む「謎」の中身はこうだ。

戦後すぐの1940年代末から1950年代にかけて、日本の労働現場は荒れに荒れていた。度重なる争議が起こり、ストライキも日常茶飯事だった。がしかし、その後、様相が一変した。労働者は争いごとを起こすのを控えるようになった。経営に対して共働的となり、仕事に対して真剣な工夫を行うようになった。

彼らはなぜかくも変わったのか。

この疑問に対して、労働史家はこういう。企業による労働者の囲い込みがあったからだ、と。企業との一体感を高め、運命共同体とならせるべく、労働者の生活に企業がさまざまな局面から介入した、というのである。

謎を解く手がかりはトヨタの長期争議にあり

ここに、小池探偵は大きな疑問を差し挟む。技術や技能という後ろ盾のないまま、企業との一体感を高めても、どんなメリットが経営側にあるというのか。人間関係を緊密にすれば果たしてやる気が高まるのか。共働を進め、仕事の効率を高める工夫は愚かな人ではできない。そうした賢い人が企業に簡単に丸め込まれるだろうか。しかも、彼らは各種調査によれば、仕事に対する高い意識、張り合い感ももっている。それは企業との一体感の醸成というだけでは生まれないのではないか、と。ここで、最近のテレビドラマ「相棒」でいえば、杉下刑事、もとい水谷豊の顔が大写しになる感じである。

この謎を解くために、著者が取り上げるのがトヨタ自動車なのだが、これは事柄を深く見るにはひとつの事例に沈潜しないと駄目だ、という問題意識からであり、日本の大規模製造業一般を同社で代替して説明しているのである。しかも、著者は名古屋に長年住んだ経験があり、トヨタも何度も訪ねた。その経験、知見を生かしたいという目論見もあった。

その謎を解く鍵は1950年に起こった、2ヶ月にも及んだトヨタ最大の争議にある。そうにらんだ著者は、社史、組合史、公刊労働運動史を博捜し、日産やいすゞ自動車で同時期に起こった争議との比較も綿密に行い、その実態を詳しく解明する。

ストライキ期間はどれほどだったか、どれだけの人数が解雇されたか、それに対して労働側はいかに対抗したか、ストライキの影響と規模を車の生産台数で見るとどうか、経営者の態度はどうだったか、争議はどうやって終息したのか・・・。

しかも、著者は予想される反論への準備も怠らない。つまり、経営に共働的になったのは、単に組合リーダーの顔ぶれが変わったからではないか、という反論である。

転換のもとは市場経済の正確な認識

これを検証するために、1950年前後のリーダーがその争議後、組合から姿を消したのかどうか、後代の共働型のリーダーが1950年前後のはげしい争議と無縁か、もしくは反対派に属していたのかどうか、という2本の仮説を立て、調べるのである。この綿密さ!

詳しい説明は謎解きになってしまうため、ここでは省くが、その後の度重なる争議も経て、市場経済の現実やつらい仕組みを痛切に認識したトヨタの労働者は自らの主張をごり押しし、経営側に対抗することの空しさを認識するようになっていったという。

もちろん、経営側の働きかけもあって、そこから労働者は生産職場における仕事の工夫に目覚めていく。具体的には、現場からの提案活動であり、実際の生産ラインについている時の仕事の工夫である。著者が重視するのは、後者、すなわち、現場において「変化と問題への対応」能力をいかに高めているのか、ということだ。彼らは「機械に合わせた単純作業」を行っているのではないし、一つの仕事をきわめさせる欧米の労働者と比べ、多工程を経験させることで職人的技能が失われた「遅れた労働者」でもない。仕事の工夫を怠らない、世界に先駆けた知的ブルーワーカーなのだ。いわば小池「労働経済学」の真髄が語られるのである。

日本の強みは海外でも通用する

では、なぜ日本の生産労働者は一生懸命、仕事の工夫をするようになったのか。ここで生きてくるのが海外との比較だ。特にアメリカの労使関係は日本のように共働的とはいいがたく、むしろ対抗的だ。生産現場では仕事の工夫も日本の労働者ほど熱心に行わない。

著者が彼我の差としてあげるのが、次の3点である。

すなわち、アメリカのブルーカラー労働者には日本の労働者に比べて技能の形成、向上の機会が充分に与えられていないこと、そうした機会だけではなく、技能向上に対してインセンティブを与える仕組みもアメリカは弱かったこと、生産労働者の仕事上の工夫をアメリカの経営者は日本の経営者ほど重要だと考えていなかったこと。これを著者の言葉でまとめてみれば、日本では「ブルーカラーのホワイトカラー化」が欧米と比べて進んでいたということだ。

このうち、二番目のインセンティブの仕組みが、トヨタを例に詳しく綴られる。具体的には昇格・昇進の仕組み、そして賃金の上昇具合とその決定方式である。「日本は職能給、他国は職務給」「日本の給与は年功で上がっていく」「非正規は出世できない」・・・・・・名探偵は健在、通説が、ここでも小気味よく破壊されていく。

さて、日本の労働者や経営者が作り上げたこうした珠玉の仕組みが海外でも堂々と通用する。それを確認するのが後半部分となる。ここでは日本企業は内向きで海外進出に消極的、という通説が破られる。「現地化が遅れ優秀な人材が定着しない」という、海外日本企業に対するステレオタイプの批判に反論が展開される。企業が海外で業績を上げるためにはその持ち味を発揮するしかない。日本企業の強みは職場の中堅層の育成と活用にあり、そのためには大勢の仕事を教える人たちを現地に送り込むことが必要なのであり、しかもその人たちを後押しする日本人が経営トップに就くことが肝要なのだ、と。現場を隈なく歩いた人でなければ吐けない言葉だろう。

ジョブ型社員制度への示唆

本書は広い意味で歴史書といえよう。歴史とは単なる過去の事象ではない。過去を振り返る視点は常に現在にあるからだ。そう考えると、著者が本書を著した意図が明確になる。日本企業が海外で戦う場面がこれからますます増える。そこで勝つために、自分たちの遺産(=強み)を再認識すべき、という憂国の思いだろう。

小池理論の中核概念であるブルーカラーのホワイトカラー化、それは難しい仕事を、経営に近い上級ホワイトカラーのみならず、現場の労働者にも任せ、その代わりに欧米ではホワイトカラーのみに適用されている査定つき賃金という仕組みを適用することだ。著者はそこまで触れていないが、そうやって現場の労働者の地位が一段上がったのと歩を一にして、戦後日本の企業社会においては「ホワイトカラー(=大卒男子)の総エリート化」が進行した。それは社員に「犠牲」を強いたかもしれないが、反面、壮大なインセンティブシステムとして機能し、それに応じた「仕事の工夫」を多くの社員が行ったのは間違いない。

いま議論されている「ジョブ型社員」はそこにメスを入れ、意図的にノンエリートを作り出そう、という動きだ。人は期待されるから頑張る。その頑張りに報いる昇進や昇給があるから、さらに頑張ろうとする。ジョブ型社員であっても、仕事の工夫を怠らせないために、インセンティブシステムの設計が非常に重要、というメッセージも本書から受け取るべきだろう。

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