人事必読本レビュー:エリック・ブリニョルフソン アンドリュー・マカフィー著/村井章子 訳『機械との競争』

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仕事の現在、そして未来について考えさせてくれる本です。

実務にお忙しい人事の方向けに、世にあまた流通する人事に関連する書籍の中から、新刊を中心に、HRmics編集部が特に推薦したい書籍を選び、その読みどころをご紹介いたします。HRmics副編集長の荻野が担当いたします。※2013/05/23の記事です。

雑誌専門図書館の利用者が減った理由

人事必読本レビュー:エリック・ブリニョルフソン アンドリュー・マカフィー著/村井章子 訳『機械との競争』

人事の役割についてよく考える。人を見ること、人を選び評価すること、それが大切なのは論を俟たない。でもそれだけでは十分ではない。人の一方にある仕事も見なければ。結局、人と仕事をベストマッチさせる、それが人事の本質的役割ではないだろうか。だとしたら、人ばかりではなく、仕事のあり方、その変容にも意を払う必要があるはずだ。そのために好適な1冊を紹介したい。

東京の世田谷に雑誌専門の図書館がある。過去から現在に至る、膨大な雑誌記事が索引形式で閲覧できるというユニークな施設だ。本書を読んで真っ先に思い出したのが、この図書館のことだった。

1990年代半ばくらいまで、ここに通うのが、メディア関係者、なかんずく雑誌編集者の重要な仕事だった。もしくは、編集者の命を受けた膨大なアルバイトが電車を乗り継ぎ、通ってきていた。

何のために?ネタ探しであり、企画固めである。

こんな企画を考えたけれど、そこに合うネタがない。じゃあ、あそこに行こう。

企画までは固まっていないけれど、こんなテーマで何かできないか。じゃあ、あそこに行こう。

そう、編集者にとって困った時の駆け込み寺、行けば何かがある宝の箱だったのだ。

ところが先日、久しぶりに行ってびっくりした。客(有料なので・・・)が少ないのである。それに応じ働いているスタッフの数も減ったようだ。おまけに入館料もコピー代もすごく安くなっていた。

明らかにパソコンとネットの影響である。きょうびは某新聞社が提供する、雑誌から新聞まで、幅広く検索閲覧できる有料サイトもあるくらいだ。その図書館が担っていた「雑誌記事の検索と提供」という仕事を、パソコンとネットが奪いつつあるということだろう(もちろん、完全に置き換わるわけではないが)。

失業は、コンピュータが引き起こしている

そうした「デジタル・テクノロジー失業」があらゆる分野で起こりつつあり、社会に大きなインパクトを与えている・・・・・・われわれが何となく、そうかな、と思っていたことを、本書は丁寧に解き明かしていく。事例はアメリカだが、日本人にとっても身につまされる内容だ。

リーマン・ショック後、企業関連の経営データはすみやかに改善しているのに、アメリカの失業率が一向に上向きにならないのはなぜか。

そもそも、経済学で失業の原因を説明する古典的説は2つある。一つは景気循環説であり、今回の大不況のように需要の落ち込みがひどい場合、そこからの回復に時間がかかるのは当然で、もうしばらくしたら、上向きのトレンドがやって来て、失業も改善されるだろう、という立場だ。二つは停滞説、すなわち循環は問題ではなく、イノベーション不足や生産性の低下により、経済が長期的な停滞に陥っているという説である。

著者はどちらの説にも与せず、その原因を停滞説とは逆の原因に求める。技術の進歩が遅くなっているのではなく、デジタル分野においては早過ぎる。それによって、物やサービスを提供するために必要な労働者の数がどんどん減っているのだ、と。名づけて「雇用喪失」説である。

そんなデジタル技術の進化の早さを如実に示すのが、自動車運転技術だ。数年前まで、計算の実行といった、既存のルールを適用するようなタスクはコンピュータに任せることができたが、パターン認識といったタスクはあらかじめ膨大なインプット情報が必要だから、そのタスクの最たる自動車運転はコンピュータには無理、という考え方が常識だった。2004年にアメリカ国防総省がロボットカーで砂漠の上の道路200キロを走破させるレースを行ったところ、優勝した車でさえも、8時間かけてわずか12キロしか走れなかった。

運転の自動化を目指すグーグル

ところが、その6年後の2010年、グーグルが、グーグルマップとストリートビューを駆使し、完全自動運転車で、人の介入なしに、アメリカ国内の道路を1600キロも走破することに成功。ネバダ州議会は自動運転車両が州の公道で試験走行することを公認したという。数年後、ネバダ州ではトラック運転手やタクシードライバーの失業が深刻になるかもしれない。

その他にも、ハイテク企業と顧客が交わす会話や質疑応答に威力を発揮する機械翻訳ソフト、人気クイズ番組で人間の回答者を負かすために開発され、実際に圧倒的差で勝ったスーパーコンピュータ、開示証拠のレビューにコンピュータが使えるので、大勢のスタッフが不要になった法務界の事情、セルフレジなど、小売業界で進行している自動化の動きなどが紹介される。考えてみれば、われわれの身の回りにも自動化=コンピュータ化により、人の関与が減ったものが沢山あることに気づく。その最たるものが駅の改札係だ。

ではすべてがコンピュータに置き換わってしまうのか。否である。著者によれば、今のところ、人間が優位を保っているのは肉体労働の世界だ。開発はされているが、人型ロボットはまだ原始的で、運動機能は人間のほうが抜群に優れているからだ。

ここまで読むと、よくある近未来話であり、自分にはあまり関係ないなあ、と思われるかもしれない。でも「機械との競争」は冷酷無比にあらゆる面に及ぶ。

アメリカの1人当たり実質GDPと実質世帯所得中央値を年次推移で比較したデータを見ると、GDPは右肩上がりに増えているのに、所得中央値は伸び悩んでいる。過去10年間の絶対値を見ると減っている。求人数も停滞している。この10年、アメリカの非農業部門の雇用増はほぼゼロだった。リーマン・ショックの影響だけではない。数値は2000年あたりから減り続けてきているのだ。

著者は、所得と雇用が低迷している原因をコンピュータの性能向上に見出す。そのすさまじさを説明するために、著者は「ムーアの法則」を示し、さらにそれを「チェス盤の法則」で補強する。前者は集積回路の密度が18ヶ月ごとに倍増するという経験則であり、これが今も続いているというのだ。

米が倍々で増えるとエベレストの高さに

後者はどういう法則かというと、チェス盤を発明した男がいて王様に献上したところ、「褒美をつかわす」と王様はご満悦顔。男は、「チェス盤の最初のマス目に米を1粒、2番目にその2倍の2粒、3番目にその2倍の4粒と、前のマス目の倍の米をおいていき、最終的に64マスすべてに置かれた米をいただきたい」と伝えた。王様は「それぐらい、お安い御用」と承知したが、実際やるととんでもないことがわかった。最終的に米粒の数は2の64乗マイナス1粒となり、積み上げるとエベレストよりも高いことになったのである。

「ムーアの法則」もその一種だが、これは指数関数の伸びの急激さを表わしたもので、王様がそうだったように、簡単に人を欺く。特に伸びがすごいのは32マス目以降である。著者は米商務省が設備投資の対象に情報投資を加えた1958年をIT元年とみなし、18ヶ月で倍増というムーアの法則に即して、32回倍増した年、つまり32マス目に達した年を求め、それを2006年と結論づける。だとすると、車の自動運転も、機械翻訳も、クイズで人を負かすスーパーコンピュータも、これから興るデジタルイノベーションのさわりに過ぎない。今後、コンピュータの発達がますます職業と雇用に影響を与え、社会を勝ち組と負け組に二極化させていくだろう、と著者はいう。

特に影響を受けるのが中間的スキルを持った労働者。ハイスキルの労働者はコンピュータが代替できない高度な判断業務に従事するから、影響は軽微ですむ。ロースキルの労働者、つまり身体の動きと知覚をうまく組み合わせる必要がある肉体労働者も、その仕事をコンピュータが肩代わりするまでにはまだ時間がかかる。帳簿の記帳係、銀行の窓口担当、工場の反熟練工といった中間的スキルを仕事とする労働者は、両者に比べたら、ずっとコンピュータに代替される可能性が高いのである。

でもしかし、未来は暗黒ではない

ここまで読むと非常に暗い話のように思えるが、ここから話は一転する。著者は、デジタルテクノロジーの進展が人間社会を不幸にさせないために、「機械との競争」ではなく、「機械を味方につけた競争」の実行、年々、質が向上する一方で、廉価になっていくテクノロジーと職を失いつつあるミドルクラスの労働者を結び合わせる起業家の育成、ハイスキル労働者を育てる教育への投資、を呼びかけ、それが実行されれば人類の将来は明るいと断じるのである。

200ページにも満たないコンパクトなサイズながら、自分の今の仕事がどれだけネットに代替可能か、といったことも含め、仕事の現在、そして未来について考えさせてくれる本だ。ひとつだけ違和感を抱いたのは、著者がデジタル・テクノロジーという時、もっぱらコンピュータの集積回路のみに着目し、ネットについての意識が薄い感じがした。アマゾンがどれだけの数の中小書店の経営に影響を与えたか。デジタル・テクノロジー、そして、その発達による雇用破壊を論じるにはその両面が影響するはずだ。

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