識者が語る「非正規雇用の決着点」(後編)

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日本企業の課題は、既存の無限定社員か限定社員かという二者択一の問題ではない。

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、5月23日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けしていますが、最終回の今回は、Part2として行われた有期雇用法制を巡る座談会の内容をお伝えする後編です。※2013/07/18の記事です。


登壇者:
濱口桂一郎氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労使関係・労使コミュニケーション部門 統括研究員)
水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所 教授)
川渕香代子氏(一般社団法人 人材サービス産業協議会 プロジェクト推進担当部長)

司会:
海老原嗣生(HRmics編集長)

日本と欧州の労組の違い

海老原(以下、海)日本では雇用者は人間関係で会社とつながるのに対して、欧州では、仕事で会社とつながるということがよくわかった。仕事でつながるという意味では、欧州流の会社横断的な組合がまさにそうだ。水町さんにお聞きしたい。まさにそういう事情で、欧州では雇用者と組合とのつながりが深くなっているのか。

水町(以下、水)現象面からいえばそうだが、大前提として、「まず組合ありき」ではなく、労働市場の構造自体が職務が基盤になっているため、組合が職業別、産業別になっている。そう考えたほうが自然だ。

海 ギルドやクラフトユニオンの存在があったから、欧州の組合は職業別、産業別が一般的になっているのでは。

水 歴史的にはそうだ。中世の渡り職人たちが職業別組合の基礎をつくったといえる。

海 だとすると、ギルドのようなものが仮に存在しなかったら、欧州でも日本のような企業別組合が主流になったかもしれないと考えてよいか。

水 そうともいえないだろう。たとえば日本の明治時代の労働運動は産業別組合の結成を目標としていたし、その萌芽もあった。それが戦争に敗れ、高度成長を経て、“就社”社会が形作られ、組合も企業別に収斂していった。欧州社会はギルドがあろうがなかろうが、基本的に職務中心主義がメインストリームだったのは間違いない。ただ、最近はフランスでもドイツでも、産業別組合の企業内支部が力をつけ始め、賃金など、具体的な交渉を支部単位で行うようになっている。

濱 欧州の場合、日本と違い、労組は企業の外にあるというのが基本だが、一方で、企業委員会、事業所委員会のように、同じ職場の者同士が集まった組織が企業内部にもある。その2つが労使交渉をうまく分担しているのだ。ただこれは日本型に近づいているわけではない。労働条件の基本は個々の企業を超えた産業別で決まる。この鉄則は揺るがない。

海 水町さんにお聞きしたい。そういった形で、同じ仕事をしている人は同じ給与となっているのか。

水 日本でいう最低賃金の職務および勤続年数が産業レベルの労働協約で決まっていると考えていただければよい。それ以外に、成果給、キャリア給といった企業ごとの上乗せ分がある。

海 それは同じ職種でも級ごと、あるいは格付けごとに決まっているのか。

水 そうだ。

海 ブルーカラーや初級ホワイトカラーの場合はよく分かる。ただ、判断業務が多く、チームで動くことが多い中級以上のホワイトカラーになると、それを決めるのが困難ではないか。

水 確かにそうだが、欧州のホワイトカラーの職務内容は日本のホワイトカラーより限定されているので、うまくやれているようだ。フランスの場合、幹部社員であるカードルはまた別の協約でかなり柔軟に給料を決めている。

職業別労働市場を作ろうとした半世紀前の実験

海 濱口さんにお聞きしたい。しっかりした産業別組合も資格もない日本で、同じような仕組みを導入するのは難しいのではないか。

濱 半世紀前、日本政府がまさに同じことを考え、みごと失敗している。日本を欧米型のジョブ型社会に変えようとして開始した技能検定制度がそれで、まさに壮大な実験だった。企業横断的に適用できる職務資格を作ろうとしたのだが、かなわなかった。制度自体は今もあるが、企業内における昇進の目安くらいにしか使われていない。ところが最近になって同じような取り組みを政府が行い始めた。ジョブカード制度や日本版NVQ(全国職業資格)の創設がそれだ。こうした仕組みが出来たとしても、それが日本の主流になるのだろうか。私は「ならない」と思っているし、推進している人たちも同意見だろう。でもなぜそれが必要なのかというと、日本型雇用システムから必然的に落ちこぼれざるを得ない人たちが出てきたからだ。日経連(当時)が「新時代の「日本的経営」」という提言をまとめたのが1995年のことである。そこでは、従来の正社員を指す「長期蓄積能力活用型グループ」の数は今後減らさざるを得ず、代わりに増えるのが「雇用柔軟型グループ」だと述べている。でもその人たちの受け皿となる仕組みまで考えられていなかった。どうしよう、と言っている時に、労働契約法が改正され、5年経ったら、期間の定めのない雇用に移行する人たちという新しい一群が生まれる。この人たちの存在を考えると、半世紀前の実験がにわかに現実味を帯びてきたということだ。

海 確かにエントリーレベルの仕事は職務のパッケージ化も資格化もしやすい。

濱 フランスだったら圧倒的少数派のカードルに適用されるような処遇や働かせ方を圧倒的多数派に適用してきたのが日本型雇用である。それは会社に、そして日本社会に余裕があったからできたことだ。今は違う。そこからこぼれ落ちてしまう人が出ざるを得ない。だとしたら、新しい道筋を考えないといけない。それはみんなが「課長・島耕作」のように働くのではなく、仕事がある限り、現場でベテランと呼ばれる人たちが、あえて出世を目指さず、誇りを持って働けるようなシステムのことだ。

派遣業が資格付与・組合機能を代替してきた

海 ここで川渕さんにお聞きしたい。広く社会に通用する職務資格がなく、労働者が連帯して助け合う組合も弱い日本において、その2つの機能を担ってきたのは、実は派遣に代表される人材ビジネスではないか、と私は考えている。

川渕(以下、川)おっしゃる通りだ。派遣会社は登録者の職歴や希望する労働条件と、その方のスキルをチェックし、それらにかなった派遣先を紹介し、働いてもらう。その時々でニーズの高い業務であれば当然に時給は高くなり、しかも、エリアや派遣先の企業規模が同じなら、派遣会社が異なっても、ほぼ同じくらいの金額になっている。そういう意味では、スキルごとに、ある程度の賃金テーブルが派遣会社間で共有されているといえるし、賃金交渉も代行しているという点で、組合の機能も一部有しているといえるかもしれない。

海 そういう擬似資格がもっと広範囲に社会に共有されれば、日本版NVQとほぼ同じものが出来上がっていくのもあながち夢物語ではない。

川 入り口部分の時給決めには確かにその「資格」は使える。問題は、働き始めてから、派遣先が派遣労働者を評価する基準作りがなかなか難しいことだ。その人の専門能力というよりは、極めて日本的な、人当たりのよさだとか、難易度の高い仕事に挑戦してくれる姿勢などが評価される。いわば「見えない評価」であり、何とかこれを見える化できないか、今、模索を続けている。

海 それは興味深い試みだ。次は水町さんにお聞きしたい。昨今、日本でも衰退産業から成長産業へ人材移動という問題がさかんに議論されている。こうした産業横断型の人の移動は欧州型の産業別組合の場合、担うのが難しいのではないか。

水 その通りだ。欧州でも同じことが言われているが、日本と同じように、なかなかうまく実現しない。欧州は職務限定なので、別の仕事に就いてもらう場合、かなり綿密な再教育や再訓練が必須となるが、それを受けさせること自体が難しい。その点、日本企業は配転やリストラという形で、同一企業内、もしくはグループ企業内を動くのが半ば当たり前なのでもっと柔軟に対応できる。

派遣・請負の強みと課題

海 派遣や、もっと歴史の古い請負は、石炭から造船、鉄鋼、造船から家電、自動車へ、といった形で、主役産業の交替時に人の移動をも成功させてきた歴史を持っている。こういったことはなぜ可能だったのか。

川 他の産業でも通用する汎用スキルを評価するシステムを持っているからではないか。たとえば、リーマン・ショックの後、製造業で働いていた派遣労働者が製造業以外の別の産業にスムーズに移動できた例もある。よく言われるような接客や介護など「人と接する仕事は無理」という人に、牧場の動物の世話をする仕事を紹介したこともあったし、介護の現場でも人と接する必要がない仕事もある。また、先述したような、専門スキルではない、心配りや人当たりのよさといった「見えないスキル」を派遣先にアピールして、仕事が決まったケースもある。まずは働いてもらい、同時並行で足りないスキルを補うトレーニングを用意するケースもある。未経験でも人を働かせるための合わせ技が人材ビジネスには蓄積されていると思う。

海 少々うがった見方をすると、派遣スタッフは派遣先企業から見れば、社内ではなく「社外」の人だから、選別に際してさほどうるさいことを言わない。だからハードルが低くなり、産業間移動もしやすいという面もあるのでは。

川 確かにあるだろう。派遣は人材の保証機能も担っているので、同じ人が直接応募するよりも、派遣会社が介在するほうが企業側のハードルは大きく下がる。

海 一方で、派遣や請負は違法業者による過大な中間搾取の問題や安全管理が行き届いていないといった問題も抱えている。

川 業界団体独自の取組みとして、自主ルールを定めたり、法令に関してのセミナーなどの啓発活動を行っている。また派遣先、派遣労働者双方が優良な派遣会社を選別できる仕組みとして、優良派遣事業者認定制度の創設も国で予算化されており、業界とともに具体的な制度の検討に入るところだ。悪質業者が市場から自然に淘汰される仕組みを作っていかなければならない。

今回の法改正を未来に向けた第一歩に

海 そろそろ時間も来たようなので、最後に水町さん、濱口さんに一言ずつお願いしたい。

水 繰り返しになるが、日本企業のこれからの課題というのは、既存の無限定社員か、限定社員か、という二者択一の政策を考えることではない。企業と労働者のニーズをすり合わせながら、両者のハイブリッドを含め、それぞれを選択していけばいいことだ。むしろ問題は正規と非正規の格差である。正規、すなわち正社員に中に、過大な業務を負わされて働きすぎになり、メンタルの問題を発症してしまう人たちが増えている。一方の非正規は給与が安く、普通の生活を送るのに足りる収入を得られず、結婚するのが難しい状況に置かれている人たちが増えている。この問題を、無限定社員、限定社員の問題にどう絡めて考えていくかが重要だ。

濱 結局、今の日本の雇用システムだと、「不本意な非正規」と「不本意な正規」が多く発生してしまう。これをどうするか、という問題だ。特に目に入りにくいのが、職務や勤務地が限定されているほうが落ち着くのに、そういった働き方が難しい「不本意な正規」である。それを何とかしよう、ということが今回の労働契約法改正問題の底流にあるべきだ。それを、限定社員だから解雇しやすいはずだ、という変な話にしないようにしないと。そうした人たちが救われる出発点になれば、と思っている。

海 バブルが崩壊して既に22年が経った。その間、紆余曲折があったが、ようやくこういう議論ができるところまできた。10年前だったら無理だっただろう。そういう意味で、今回の法改正は未来に向けた前向きの一歩ととらえたいものだ。

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