識者が語る「非正規雇用の決着点」(前編)

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職務無限定という日本型の暗黙の了解を壊す存在になっていく?

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、5月23日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けしています。2回目となった今回は、Part2として行われた有期雇用法制を巡る座談会の内容をお伝えする前編となります。※2013/07/11の記事です。

登壇者:
濱口桂一郎氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労使関係・労使コミュニケーション部門 統括研究員)
水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所 教授)
川渕香代子氏(一般社団法人 人材サービス産業協議会 プロジェクト推進担当部長)

司会:
海老原嗣生(HRmics編集長)

「正社員」のいない欧州

海老原(以下、海) 欧州の場合、日本ほど簡単に有期雇用が活用できないと聞く。実態はどうなのか。

水町(以下、水)欧州といっても広いので、私が詳しいフランスとドイツの話に限らせていただくが、両国とも、そもそも正社員という概念がない。代わりに、期間の定めのない雇用、期間の定めのある雇用という区別がある。特にフランスでは期間の定めのない雇用が原則になっており、定めのある雇用は企業は一時的にしか活用できない。ファストフードの定員やスーパーのレジ打ちの人も、多くが期間の定めのない雇用となっている。ところが最近は若者の就職難が厳しく、大卒の半数以上が期間の定めのある雇用にしか就けていない。

海 フランスにはカードルと呼ばれるエリート層がいる。部署移動もあり、離職率も非常に低い。彼らは日本の総合職と同じと考えていいのか。

水 グランドゼコール卒業など、非常に高い学歴が必要で、日本の総合職より人数が少ない。しかも異動があると言っても、日本の総合職ほどではない。そこが大きな違いだ。

海 期間の定めのない雇用が原則だとすると、ファストフード店が閉店したり、ある地域から撤退する場合、雇用はどうなるのか。そのまま終了なのか。

水 そうだ。フランスでは整理解雇時における企業の経営判断は尊重され、仕事がなくなった際の整理解雇は結構認められる。ただ、日本より解雇の手続きが厳しい。それを怠ると、訴訟を起こされ、数年後、裁判が結審した際に全員の復職を命じる判決が出ることもある。総合的に考えると、日本に比べて欧州の解雇規制が緩いということは言えない。向こうは向こうできちんと規制が行われている。

「気がつけば別会社」を嫌う日本人、認める欧米人

海 この点について、濱口さんはどう考えるか。

濱口(以下、濱)同意見だ。日本の解雇規制が厳しいという見方は根本的に間違っている。日本と欧州では雇用に関する重点のおきどころが違う。そこが解雇規制に現れているだけだ。欧州の場合、重点のおきどころは仕事であり、雇用関係は仕事で会社とつながる。一方、日本の場合は仕事ではなく人であり、雇用関係は人で会社とつながる。結果、欧州では仕事がなくなったら「はい、さようなら」とすぐに言えるが、日本では仕事がなくなってもそれが言えない。その違いだ。

海 日本型の「人でつながる雇用関係」の典型が総合職だが、とはいえ、エンジニアはある領域の仕事しかできないし、営業もベテランになればなるほど、他の部署には異動させにくくなる。つまり、日本でも、仕事で会社とつながる人たちも多いのではないか。

濱 確かに、日本と欧州とで、その白黒が判然と分かれているわけではなく、ある種のグラデーションがあるのは否定できない。ただ、彼我の違いは大きい。わかりやすい例でいうと、会社分割や事業譲渡の際の話である。日本人は、「気がつけば別会社」となるのを非常に嫌う。一方、欧米人は事業が譲渡され、元いた会社に自分の仕事がなくなった場合、別会社で同じ仕事を続けるのが当然と考える。ここに日本人と欧米人の雇用意識の違いが現れている。

海 今回、労働契約法が改正され、有期雇用契約を更新して勤務期間が連続5年になった場合、本人が希望すれば期間の定めのない雇用に移行することができるようになった。そうなった彼らは職務限定社員であるから、日本における、欧州流の「仕事でつながる」社員のはしりになるのだろうか。

濱 日本の雇用法制は職務無限定が原則になっている。そういう人たちも、結果的に限定されているだけで、雇用契約にそう書かれている例は稀だ。

海 ということは、職務無限定という日本型の暗黙の了解を壊す存在になっていく、と。

欧州でも能力不足の解雇は難しい

濱 いや、壊すまではいかないだろう。2007年に成立したパートタイム労働法に「通常の労働者」という言葉が出てくる。これは外国人に説明するのが非常に難しい言葉だ。そのパート労働法によると、「通常の労働者」たるためには、単に期間の定めのないだけでは足りず、職務内容や配置が定期的に変更されることが必要とされる。つまり、有期5年を経て期間の定めのない雇用に移行した人が即、正社員というわけではない。いくらそういう人が増えても、正社員中心の日本の雇用システムが壊れることはないだろう。

海 「壊す」はさすがに言いすぎで、少しずつ変わっていくということだろう。次は水町さんにお聞きしたい。仕事で会社とつながる欧州においては、「その仕事を行うための能力が不足しているのだから、辞めてもらう」と、労働者の指名解雇が結構、簡単に行われると考えていいだろうか。

水 職務を限定すると、労働者が自分の専門能力を高めるインセンティブが働くというプラス面と、おっしゃる通り、その職務がなくなった場合、解雇されやすいというマイナス面がある。しかも職務能力はすぐに陳腐化する。その場合、すぐに解雇を認めていいのか、ということが欧州でも問題になっているが、昨今、そうした形の解雇は認められず、その前に再配置や再教育の義務が企業に課される傾向が強くなっている。そういう意味では欧州が日本に近づいてきている。

海 その職務遂行能力の有無に関して、どういったことがエビデンスになるのか。

水 日本の、特に新卒採用の場合は人格や協調性といったことを、手間暇かけて見抜く。それに対して、欧州ではそこまで見ない。法学部を卒業しているなら、法律に詳しいはず、商学部を卒業しているなら会計に詳しいはず、と判断して採用する。日本のように人格や協調性というところまで踏み込まないが、学部卒業というところがかなりのエビデンスになっている。

欧州こそ本当の学歴社会

海 職務のパッケージ化や標準化は、ブルーカラーもしくは事務職などの初級ホワイトカラーはともかく、上級ホワイトカラーになればなるほど難しいのが現実だ。日本の場合、営業、総務、人事といった仕事は文系出身者の多くが就くが、いずれも大学の専門とほとんどリンクしていない。この辺りの欧州の事情を濱口さんに教えていただきたい。

濱 10数年前、私の今の勤務先である労働政策研究・研修機構が、大学で学んだことと、社会に出た後の職業がどうつながっているか、という国際研究を行っていた。それによると、日本はつながりが弱かったのに対して欧州は逆に強かった。結局、社会の約束ごととして、学校で学んだ実績や資格というものの価値が認められる社会なのか、そんなものは意味なくて、目の前にいる生身の人間が何ができるかを重視する社会か、の違いである。欧州は前者、日本は後者である。OECDの雇用に関する文書を日本語に翻訳していた時、スキル、クオリフィケーション、学歴水準の3つがほぼ同義語として使われているのにびっくりした。日本では考えられないことである。日本人はそんなものは信用していない。目の前の人間ができる奴か、うちの組織に合う奴か、を自分たちで見極める。

水 職務が限定されていない社員がフレキシブルに働くのは欧米企業には真似できない日本企業の強みである。ただ、そうした働き方をしている人たちの中で、明らかに過剰労働に陥っている人たちがいる。それは是正すべき大きな問題だ。でも、だからといって、職務限定社員を増やせばいいという単純な話ではない。先述したように、欧州だって、職務限定方式だと社会の変化に対応できない時代となっており、一つではなく、二つ、三つの職務を持たせるような動きが出てきている。職務限定社員が流行りだからといって、それに飛びつくのは愚である。法律も「そうせよ」とは一言も言っていない。自分の会社における社員区分のあり方を広い視野から再検討していただきたい。

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