実務者しか語れない外資系人事の真実(後編)

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評価、昇進、そして出口管理と、話は核心に迫ります。

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、1月23日に東京で行われた最新レビューの概要をお届けしていますが、前回に引き続き、ドイツに本社のある世界的物流会社の日本支社、DHLジャパンで、オーガニゼーションディベロップメントマネージャーをつとめる牛島仁氏のお話をご紹介します。レポートは同誌副編集長の荻野です。※2013/02/28の記事です。

「不公平な平等」より「公正な格差」

報酬を決定するにあたって大切なことは何か、という問いを投げかけられた場合、日本企業の人事は「公平」と答えるのではないだろうか(最近はそうでなくなっているのかもしれないが)。牛島氏によれば欧米は違う。「公正 (Fairness)」を何より重視し、その結果、格差が生まれても、いたしかたないという立場を取る。

そもそも、社員への報酬は三つのPに対して支払われる。一つ目のPは、Performance。業績に対して支払われるものだ。二つ目はPosition、つまり職務や役割に対して支払われる。最後のPがPerson、人に対して支払われるものである。日本では職務や業績よりもその人の能力に対して支払う部分が大きい。この能力こそ、Personそのものである。つまり、日本ではPersonに対して支払われる割合が大きいということだ。

ただし、欧米でもそれはゼロではないという。例えば際立つ功績をあげた人には優秀社員賞、長年、勤めた人に対しては永年勤続賞という形で支払われるケースがあるが、それが基本給に反映されるケースは少なく、一時的な報償にとどまるケースが多い。

まとめると、日本では報酬を決める評価対象となるものが「Person>Position>Performance」であるのに対して、欧米では「Performance> Position> Person」と、ちょうど逆になっているということだろう。Person(≒能力)は短期的にはそう変わらないが、Performanceは短期で大きく変動し得る。それを反映させると、「公正な格差」が生まれるということだ。

昇進はあっても昇格はない

連続して高評価を勝ち得た人が昇進の栄に浴することができる。この点は欧米も日本も変わらない。誰を昇進、昇格させるのか。あるいは誰を降格させるか。それを決めるのに日本で使われるのが職能資格である。欧米にはこれがない。あるのは役職と密接にリンクした職務等級だ。

牛島氏:「資格がないのだから、欧米には昇格、降格という概念は存在しない。評価は人につくのではなく、あくまで、役職を含めた職務につく。『椅子に値段(賃金の額)が貼られている』とよく例えられる。与えられた職務より、大きな成果を上げてしまう人がたまにいる。そういう場合、その人が該当する職務等級を上げることはせず、それに見合ったインセンティブを支給することで対応する。それが何度も続くと、はじめて職務等級を見直すことになる」

日本のように、能力という曖昧なものを基準にすると年功的運用となってしまう。欧米のように、職務や役職を基準にすると、年功は限りなく排除される。牛島氏自身、今いる会社で、34歳の時に部長になったが、前任者は42歳だった。もちろん待遇は同じである。前々回、エリートとノンエリートで成り立つ欧米の雇用社会の話を紹介したが、それが可能なのも、こうした形で「年功」が排除されるからなのだろう。

牛島氏:「欧米というと、転職がさかんなイメージがあるが、それは30代までだ。上に行くほど人が辞めなくなり、永年勤続表彰もさかんに行われる」

徹底したタレント管理

前回、欧米では人事権は人事にはなく、現場の管理職が握っている、という牛島氏の言葉を紹介した。そうすると、それぞれの管理職がお気に入りの人材を囲い込んでしまい、他の部署でもっと多様な経験を積ませたほうが伸びるはずの優秀な人材が「塩漬け」にならないか、という危惧が生じる。

ところがどっこい、そのリスクを回避する仕組みもきちんと用意されている。牛島氏いわく「人材棚卸し会議」がそれだ(DHLでは「タレントパネル」、GEでは「セッションC」と呼ばれている)。

牛島氏:「DHLのタレントパネルの目的は3つある。1つは管理職の能力開発、1つが、どんな人材が、どこの部署に、どの程度仕上がったタレントがどれくらいいるか、という人材マップ把握のため、最後が後継者の計画的育成のためだ」

この会議は年1回、事業部ごとに行われることが多く、担当役員が座長をつとめる。参加メンバーは部長職全員である。通常はさらに人事がファシリテータとしてつく。何が話し合われるのかといえば、部長たちの部下である管理職――日本でいう課長と係長クラス――を一人ずつ、俎上に載せ、強みは何か、開発すべきスキルは何か、現在の働きぶりはどうかなどを探り、さらに本人の希望や過去の経歴なども加味して「推薦」が出される。その推薦とは、①今のポジションで頑張ってもらう、②別のスキルを身につけさせるために横異動させる、③1年以内に部長に昇進させる、④(成績が上がらないので)今とは別の仕事に就かせる、という4つに分かれる。これによって、優秀な人材の囲い込みが不可能になり、各部署に、適切な人材が、全社(事業部)視点で戦略的に配置されるのだ。

人事権を握っている(はずの)日本の人事が、ここまで真剣に、自社の管理職のあり方を考え、戦略的に動かしているだろうか。ちょっと考えさせられた。

低評価者への指導も綿密に

ここからは、業績が改善しない人材にどうお引き取りいただくかという後ろ向きの話題となる。アメリカ企業は非情であり、ある日、出社したら、入り口で社員証を取り上げられた挙げ句、自分の机に座ることもできずに解雇を告げられ、強制退出させられる場合があると思われがちだが、ほとんどは映画の中のお話。しかるべき手続きを踏んだ上で、円満退職となる道をきちんと踏むのが普通だ。

まずは、業績改善プログラム(PIP: Performance Improvement Program)を提示し、期間を区切って具体的な業績目標を掲げ、それまでに業績改善することを求める。これに参加することで、実際に業績が改善するケースも多々ある。それでも駄目な場合は、下位職位や別職種への配置転換などの解雇回避努力を経て、何度かPIPを続けたのちに、会社・本人とも合意形成のうえ、円満退職へと進む。

牛島氏:「非情なようだが、こうした退出は早ければ早いほど本人のためになる。20、30代だったら、探せば次が見つかる。50代の退出では、いくら転職がさかんだといっても、次を見つけるのが非常に難しい」

日本と欧米、そもそも社会が違う

さて、前回、今回と、日本企業と比較して、外資の人事の現場を見てきた。最後に牛島氏が話題にしたのは、人事オペレーションの前提となる、それぞれの社会における文化の違いについてだ。キーワードは3つある。

まずは「集団主義と個人主義」。どちらが集団主義で、どちらが個人主義か、は容易におわかりだろう。これが何に関係するかというと、「仕事の守備範囲」である。

牛島氏:「欧米では、あらゆる仕事を分解して、それぞれの責任を明確にする。担当者はあくまで一人、複数で担当させる日本とは大違いだ。有給を取る場合も、担当者が不在の間にその仕事を誰がやるのかを明確にして、引き継ぎを綿密に行う。安易に引き受けると大変なことになる。逆にいえば、こういった手続きを経るからこそ、全員が有給を消化できる。一方、集団主義で、仕事の責任を明確化しないから、日本では有給消化がままならないのではないか」

次は「コンテキスト(文脈)とコンテンツ(内容)」である。コミュニケーションのよりどころについて、「どう言ったか」という文脈に依存する社会か、「何を言ったか」という内容が肝心な社会か、という分類である。前者では、顔の表情、あうんの呼吸といったことが、話された内容よりも時に多くを語る。後者では、ひたすら話された言葉だけが問題となる。

牛島氏:「日本は典型的なコンテキスト社会であり、ドイツは徹底的なコンテンツ社会。人事制度やその運用も、そういった社会の在り方を加味して変える必要がある」

三つ目は「職業人生と人生」である。その2つを明確に峻別しているのが欧米、境目が曖昧なのが日本だという。

最後はやはり企業の土台となっている社会の話になるのだ。日本的雇用の“発見者”、今は亡きアベグレン氏にインタビューした時、彼の発した言葉が蘇った。「日本社会とアメリカ社会が違うように、日本企業とアメリカ企業の組織のあり方は違って当然だ。アメリカから組織の作り方をそのまま移植したら必ず失敗する」。その通りだと私も思う。模倣する対象としてではなく、自らの姿を再確認する合わせ鏡として、外資に関心を持ち続けたいものだ。

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