定年制をめぐる諸問題についての、識者・現場担当者のパネルディスカッション(後編)

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日本型雇用は平等主義でぬるま湯的、というのは正しくない。

リクルートエージェント発行の人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするHRmicsレビュー(無料セミナー)を開催しています。恒例となりましたが、今回も3回にわたり、5月23日に行われた最新レビューの概要をお届けしています。今回は前回の続きで、定年制をめぐるパネルディスカッションの後編です。※2012/07/05の記事です。

パネリスト:
濱口桂一郎氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労使関係・労使コミュニケーション部門 統括研究員)
水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所 教授)
中澤二朗氏(新日鉄ソリューションズ株式会社 人事部 部長)
田中宏昌氏(日本電気株式会社 人事部 主任)

司会:
海老原嗣生(HRmics編集長)

役職定年という奇妙なシステム

海老原 戦後の日本企業は欧米や戦前の日本のようなエリートシステムではなく、誰でも叩き上げで偉くなれるシステムをつくりあげた。でも、そのシステムをうまく廻すには、上がり続ける賃金対策として、働きと処遇の帳尻あわせを、どこかでうまくつける必要がある。そのための苦肉の策が役職定年制だが、ある日を境に、肩書きが取れ、年収も大幅に減るという「処置」が私はどうも納得が行かない。田中さんはこの問題をどう考えるか。

田中 弊社にも役職定年制がある。肩書きは外されるものの、同じ職場にいると、部下たちが相談に行かなければならないような雰囲気があるという話もある。そうなると意思決定のスピードが遅くなるという弊害が発生しがちだ。

海老原 中澤さんはどう考えるか。

中澤 繰り返すが、人づくりに注いだ40年の歴史をまずは振り返る必要がある。その上で生かすところは生かし、修正すべきところは修正する。しかしそれ以上に大事なのは、未来に目を向けることである。グローバル競争の主戦場は今やアジアである。であれば、そこに視線を移す。われわれは「人事基盤構築」という名のインフラ競争もやっている。にもかかわらず、「比較しやすい国」だからといって欧米の研究や議論ばかりをしていたのでは埒があかない。中国やインド等、アジア諸国についても産学官あげて精通する。それを踏まえてグローバル競争に立ち向かうべきだ。

日本企業の柔軟性が仇になることも

海老原 日本型雇用は特殊で、アジアでは通用しないというのは確かに俗説だ。欧米企業と比べて雇用が安定し、おまけに教育熱心だから日本企業を好む現地人も多いと聞く。実際に、外資に引き抜かれた社員が帰って来ているとも聞く。

水町 日本とヨーロッパを比較する意味は十分にある。1970年代、ヨーロッパ諸国は低賃金を武器にしたアフリカや東欧諸国と戦い、敗れたことがあるからだ。アフリカや東欧をアジアに置き換えれば、ちょうど今の日本とそっくりだ。価格競争では新興国に勝てないのがわかっているので、生産性の向上に血眼になっている。エリートだけがいくら頑張っても高が知れているが、とにかく、上が変わらないと下が変わらないのがヨーロッパだ。それだけ、エリートシステムとそれを支える社会制度が強固なのだ。そこが日本と違う。日本は戦後、企業単位で、何でも変えられる柔軟な仕組みをつくってきた。それが日本の強みなのだが、一方で、何かの外圧によって、仕組みを変な風に変えてしまい、後で後悔することもある。こうした彼我の違いを認識するという意味でも、ヨーロッパに学ぶ意味は多いにある。途上国に生産を移した場合、最終的に価格と品質の競争が企業の生死を握る。その時に、途上国の現地法人に一人の天才エリートがいても、勝負にはならず、多くの社員のボトムアップが至上命題となる。その点では逆に、日本型雇用が一つの参考ともなるだろう。欧州は、企業経営者だけでなく、研究者や学者、政治家、官僚まですべてが、超一流大学のエリートが主導しており、彼らは立場こそ違えども、「階級」として一枚岩となっている。そうした中で企業経営を変容しようとしても、「エリート階層での意見調整」という形で緩和され、短兵急な変革は起こせない。日本の場合、こうしたしがらみがないから、極論すれば企業は単独でいかにでも変わることができる。大胆はいいのだが、その実、拙速となる可能性もあり、そこには中澤さんの言う通り、注意を払わなければならないだろう。

熟練した外科医の手さばきが要求されている

海老原 濱口さん、今のお話に関連してコメントいただきたい。

濱口 これは誤解されがちだが、日本型雇用は平等主義でぬるま湯的、というのは正しくない。日本企業ほど、ホワイトカラー、ブルーカラー問わずに厳密な査定を行い、少しずつでも社員の処遇差をつける企業は世界にない。差をつけることでやる気を涵養し、しかも、差を大きくつけ過ぎないことで、あきらめる人を出さない。その絶妙な匙加減でやってきた。このやり方がうまく行くのは、繰り返しになるが、若い人が多い、人口ピラミッドがきれいな三角形の時だけである。その形が大きくいびつになった。これからさらにいびつさを増すのはご承知のとおりだ。今までのよさを維持しながら、何を、どう調整していくのか、熟練した外科医のような手さばきが必要になっている。

海老原 両氏から側面支援受けた形の中澤さんにもご意見いただきたい。

中澤 高齢者雇用の議論が厳しいのは、裏返せば寿命が延びた証拠であり、喜ぶべきことである。しかし、その社会的要請に応えようとするあまり、企業の中に大きな歪みをもたらしてしまったら目もあてられない。どういうことか。雇用延長と企業短命化の二つのベクトルは向きが逆なのだ。高齢社会の人的構造は逆三角形に近づく一方、企業はおおむね三角構造を好む。しかもグローバル市場にあっては、高齢社会だからハンディが欲しいとねだっても、受け付けてはくれない。まさに社会的要請とグローバル市場の要請は真逆であり、衝突している。にもかかわらず社会的要請だけに引きずられれば、その歪みが企業の中に断裂をもたらしかねない。そこで働く5500万の日本人の暮らしや心にヒビが入る。制度は木に竹をつぐ。形式的雇用延長が実質的雇用短縮と抱き合わせで処理される。勤続20年の大量のミドルが、65歳までの20年間「できない人」の烙印を押され、さらには「いらない人」に転落すれば、学びの風土は荒れ、市場を勝ち抜く力は失われる。社会的要請をする社会人のほとんどは企業人でもある。社会的要請とグローバル市場の要請を対立軸でとらえてはならない。議論は偏ることなく、両者をセットにして冷静に行わなければならない。

海老原 両者のベクトルを何とか合わせようと、日本企業は対症療法を積み重ねてきた。ただ、対症療法ではそろそろ限界で、根本治療=新たなグランドデザインを描くべきではないか、というのが、私がPart1の最後に話したことだ。

中澤 外的要因が強調され過ぎて、企業の内部をぐちゃぐちゃにしてしまったケースもあるのではないか。たとえ対症療法と見えようとも、多くの企業はその問題に対して逃げずに闘ってきたし、今も必死に闘っているはずだ。

システムの改編には慎重さが必要

海老原 時間も押してきたので、最後に、お一人ずつ、コメントいただきたい。

田中 海老原さんご提案の新たなグランドデザイン=「途中からノンエリート型雇用」には基本的に賛成だ。ただし、それを実施するにあたり、社員のやる気を失わせることなく、どうソフトランディングさせるか、そこが最大の問題だ。65歳までの継続雇用義務化という問題に関しては、そこに行かない過程で、「できなくなってしまった人」にどう辞めていただくか、が、今後の人事にとって非常に頭の痛い問題になる。

中澤 賃金を10%落とすと、社員のモラールは50%落ちる。あてずっぽうだが、カネとモラールの関係は想像以上に敏感だ。モラールという点では「労働観」についても懸念がある。年齢や性別、「できる人」や「できない人」にかかわらず、人をあがめ、仕事を尊ぶ。職場では「力を貸してほしい」、「いてくれてありがとう」と言い合える。そんな企業はどうしたらできるのか。雇用延長が一層の歪みや断裂をもたらすなら、なおのことだ。「労働観」の形成が急がれる。近い将来、「できない人・いらない人」議論がこの国から消えてなくなることを願いたい。

水町 今の国会に、高年齢者雇用安定法と労働契約法、それぞれの改正案が提出されている。前者は65歳までの希望者全員雇用、ということであり、後者は有期雇用で5年働いた人の無期雇用を企業に義務づける内容だ。前者に関しては、今日の議論にもあったように、能力的に対応できない人は60歳の定年前に辞めていただくということが検討されることになるだろうし、後者に関しては、雇い止め法理に抵触する可能性があるので、5年の直前になって、「辞めてください」とは言えない。つまり、この2つの法案が通った場合、企業は、これまで以上に、「自社なりの解雇基準の明確化」を要求されることになる。このことを人事の皆さんは肝に銘じてほしい。

濱口 海老原さんが提示された「途中からノンエリート型雇用」にはアキレス腱が存在する。若い頃は日本型でバリバリ働いてもらい、中年になったら欧米型となり、大多数がノンエリートに移行、ということになると、田中さんが危惧される「できなくなってしまった人」が大量に発生する事態となり兼ねない。システムは全体がつながっているから一つのシステムなのであって、二つのシステムのいいとこどりではかえってうまく行かない場合もある。かといって別の妙案が私にあるわけでもない。人事の皆さんの努力を待つほかない。

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