定年制をめぐる諸問題についての、識者・現場担当者のパネルディスカッション(前編)

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一言で日本型雇用といっても少しずつ変わってきたのは確かだ。

リクルートエージェント発行の人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするHRmicsレビュー(無料セミナー)を開催しています。恒例となりましたが、今回も3回にわたり、5月23日に行われた最新レビューの概要をお届けしています。今回はレビューのPart2、定年制をめぐるパネルディスカッションの前編です。※2012/06/28の記事です。

パネリスト:
濱口桂一郎氏(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労使関係・労使コミュニケーション部門 統括研究員)
水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所 教授)
中澤二朗氏(新日鉄ソリューションズ株式会社 人事部 部長)
田中宏昌氏(日本電気株式会社 人事部 主任)

司会:
海老原嗣生(HRmics編集長)

欧米の高齢者雇用事情

海老原 Part1では、定年を軸にした日本型雇用の問題を扱ったが、欧米の高齢者雇用の事情はどうなのか。水町さんにお伺いしたい。

水町 アメリカにもフランスにも、年齢差別禁止法が存在するが、どちらの国でも例外措置がある。アメリカでは定年を定めること自体は違法だが、早期退職勧奨措置ということで、労働者が満足する一定の金額の支払いを同時に行えば適法となる。フランスの場合も、定年は原則違法だが、年金支給開始年齢と接合した定年はその限りではない。つまり、欧米では高齢者の所得補償を配慮した定年は例外的に認められるということだ。その背景には、高齢者の就業意欲が日本のように高くなく、所得保障が用意されれば、ある程度、前向きに辞めていく高齢者が多い、という事情がある。

海老原 アメリカの場合、そうした場合の金額はどのくらいなのか。

水町 その人の賃金、企業の規模などによって異なり、一概には言えない。要は労働者が気持ちよく辞めてくれる金額であり、最終的には裁判所が判断することになる。

海老原 お金をもらえれば本当にいいのか。プライドの問題はどうなのか。

水町 それも職種による。たとえば大学教授は多くの人にとってやりがいのある仕事であり、肉体的な負荷も少ないので、80歳、90歳の人たちが辞めずにごろごろいる。そういう人を辞めさせるのは仕事に対するプライドが高いから難しい。逆に、肉体労働などのハードな仕事は、お金さえ用意してくれるなら、ということで、すんなり退職に応じることが多い。

能力という曖昧な概念

海老原 日本ではそもそも、能力が劣った人を辞めさせる指名解雇があまり行われないのはなぜなのか。

濱口 その問題は非常に根が深い。まず日本では解雇権濫用法理というものがあるようでない。要は中身が曖昧模糊としている。もっと不思議なのは「能力」という言葉の使われ方だ。日本企業における能力とは、本来の意味の職務遂行能力のことではなく、煎じ詰めれば、仕事に対するやる気や態度のことではないか。

海老原 日本企業はもともと職務採用ではないから、その人に合う仕事を見つける義務が人事にはあり、能力不足を理由になかなか人を辞めさせることはできない。

濱口 入り口、つまり採用場面で、綿密なスクリーニングを実施し、自社の風土に合った人だけを採用するのが人事の重要な役割となるわけだが、企業規模が大きくなればなるほど、一定の割合で不適合者が増えるのは仕方ない。といっても、解雇となると、事を荒立ててしまうので、何とか辛抱して雇い続け、60歳の定年を機にお引き取りいただく、というやり方で乗り切ってきた。ところが高年齢者雇用安定法の改正案が国会に提出され、「希望者全員の65歳までの継続雇用が義務づけられる」ことになり、企業が慌てている、というのが今だ。

海老原 今のお話に関連して、水町さんにコメントいただきたい。

水町 職務能力で採用するヨーロッパでも、能力不足を理由とした解雇はなかなか認められない。その人の職がなくなった場合でも、能力転換機会の提供や再就職斡旋を実行しなければ容易には解雇できない。濱口さんがおっしゃるように、日本は能力を理由とした解雇を認めてこなかったが、最近では職務限定社員も増え、職務がなくなったら解雇も止むなし、という判例も少しずつだが出てきている。そういう意味では、解雇に関して、日本とヨーロッパは互いに接近してきているといえるだろう。

「できない人」は「いらない人」か

海老原 今度は実務家のお二人にうかがいたい。田中さん、日本企業は低い業績しか上げられない人でも、退職を促すことがなかなかできないのはなぜなのか。

田中 一人の社員に退職していただく、または解雇するには多大な労力を要するからだ。しかも、その負担の多くは上司がかぶる。その人に対して、なぜその仕事をやらないのか、不十分なまま放り出してしまうのか、突然、欠勤するのか等々、つきっきりで指導・監督してからでないと会社は解雇に踏み切れない。ひどい場合は、そのことで上司が精神的にやられてしまうケースもある。その結果、そこまで手がかかるなら……ということになる。

海老原 中澤さんはどう考えられるか。

中澤 「できない人」とは誰か。一度立ち止まって考える必要がある。「できない人」と「いらない人」は違う。相対的に評価の低い人が、ある時点で「できない人」であるだけだ。彼らにも頑張ってもらわなければ企業は回らない。かたや「いらない人」とは雇用に耐えない人である。こちらは困る。ただ、「できない人」を、知らず知らずのうちに「いらない人」にしてしまっていたら、反省が必要だ。1970年代初頭、この国の人事は衆知を集め、人づくりを主眼とする「能力主義」をかかげた。以来40年、企業は辛抱強く社員を育て、互いに切磋琢磨させ、「できる人」作りに力を注いできた。今、そうした歴史をしっかり振り返る必要がある。「できない人」と、安易にレッテルを貼ることなく、人を活かしきる観点から定年の問題も論じるべきだ。

海老原 Part1で報告したように、日本企業は人件費を下げるため、血の出るような努力をしてきたのは確かだが、年功カーブを緩くしても、50代前半でも賃金の差は、上下20%の範囲という、ごくわずかしかついていない。そういう面での改革が不徹底という事情もあるのではないか。

中澤 処遇差は、金額もみないとその震度はわからない。とはいえ、大きく環境が変わるなか、職能資格制度が修正を迫られているのも事実だ。だから企業は資格数を減らし、資格滞留年数を短くし、降格や飛び級を導入するなどの手を打ってきた。しかし気をつけなければならない。「できない人」を「いらない人」にしてしまっては元も子もない。プライドを傷つければ取り返しがつかない。

戦前の日本のほうがグローバル・スタンダードだった

海老原 おっしゃる通り、一言で日本型雇用といっても少しずつ変わってきたのは確かだ。今度は濱口さんにお聞きしたい。欧米は同じ正社員でも、エリートとノンエリートが最初から分かれていて、年齢を気にせず、長く働ける仕組みになっている。これはどうやって生まれたのか。

濱口 端的にいうと、特に先進国の場合、エリートシステムが存在する国のほうが普通で、日本がむしろ特殊なのだ。戦前の日本は違った。帝国大学出身者がエリートで社員と呼ばれ、それ以外のホワイトカラーは雇員、ブルーカラーは職工だった。これが戦中・戦後のドタバタの中で壊れ、エリートのいない変な国になった。「元に戻さないと」と思った経営者もいたはずだが、これはこれで巧く廻る仕組みであることが徐々に判明した。全員(主に大卒男性正社員)をある程度の職階まではエリートとして遇し、彼らのエネルギーを引き出すメカニズムがうまく働き始めたのだ。これには人口のマクロ状況も幸いした。年齢ピラミッドが三角形で、若い人たちが多い時代にはうまく合致したが、それが変わるとうまく働かなくなり、企業は過剰な人件費負担にあえぐようになった。年金財政の逼迫とあいまって、定年がどんどん後ろ倒しになると、エリート、ノンエリートの識別を早くやったほうがいいのではないか、という議論が必要になる。それが今なのだ。

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