間違いだらけの「新卒一括採用批判」を斬る!(後編)

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問題の本質は「採用手法」ではなく「増え過ぎた大学生」にあり

リクルートエージェント発行の人事専門誌『HRmics』。発行の翌月、誌面では紹介しきれない生の情報をお伝えするHRmicsレビュー(無料セミナー)を開催しています。前回から9月27日に東京で行われた第10回HRmicsレビューの概要をお届けしています。今回はHRmicsの海老原編集長による「間違いだらけの「新卒一括採用批判」を斬る!(後編)」です。以下、HRmicsの荻野副編集長によるレポートです。※2011/10/27の記事です。

一部の強者が得するだけの「既卒3年まで応募OK施策」

新卒一括採用批判を批判する海老原の話もいよいよ大詰め、残るは、

(6)既卒の就職チャンスが奪われる
(7)欧米型採用を見習え

という2つの批判の検討である。順番に見ていこう。

昨年11月、厚生労働省は雇用対策基本法の指針を一部改正し、既卒3年の若者まで新卒枠で応募できるよう、企業側に努力を促した。これを受け、いくつかの企業で実際に既卒3年までを新卒とみなす動きが始まっている。既卒のチャンスを拡大させるという触れ込みの施策である。

そうなると、どんなことが起きるか。海老原が危惧するのが社会人、つまり他企業に就職した若手がそこに流れ込んでくることだ。

海老原:「既卒3年以内の社会人を排除するのは難しい。フリーターだから可、正社員は不可、というのは理屈に合わないし、教育の手間が省けるから正社員は大歓迎、という企業も多いはずです。結局、採用枠は変わらないのに、社会人やフリーターが入ってくるので、新卒にとってはますます苦しい状況になるのは目に見えています」

しかも、「誰を採用して誰を落とすか」という企業の採用基準は変わらないから、そうした競争で有利になるのは、就職には困らない難関大学出身者。彼らは新卒時の他に、既卒3年まで大手有名企業に入れる道が敷かれるのだ。一方、内定がなかなか出ない、一般大学の学生が未就職のままフリーターとして応募したとしても、採用される確率は低い。つまり、本当に救済されるべき大多数の一般大学卒業生にとって何のメリットもない制度になってしまう。中小企業に関しては、前回見てきたように、既卒採用、つまり中途採用を活発に行っているから、この話題からは外れる。

図表1:新卒採用が既卒3年応募OKとなると…

海老原:「既卒3年まで新卒とみなす制度が浸透していくと、難関大学の特に成績上位者は今まで以上に有利になります。新卒ストレート入社、留学や資格試験、公務員試験にチャレンジした後の再受験、他社に就職した後の再チャレンジ、という3つのルートが生まれるからです。反面、非上位校の学生のなかには中小企業に入って実務経験を積んだ経験が評価され、既卒3年枠で大手に採用されるという流れが起き、新卒市場が上下に二極化します。これは難関大学の成績上位者を除き、新卒に厳しいアメリカ型に日本が近づくということです」

欧米型=若年に犠牲を強いる仕組み

では最後、(7)欧米型採用を見習え、を検討してみよう。

海老原が提示したのは以下、20から24歳の若年者失業率を比較したOECDのデータである。

図表2:若年者(20~24歳)失業率

 

韓国では日本とほぼ同じ新卒一括採用を行っているが、一目見て分かるように、日本と韓国の若年失業率は低く10%未満だが、10%を超す国が主流を占め、平均は15%となっている。

若年失業率が20%を超すフランスでは、2006年、入社後2年に限り、若年者の解雇をしやすくするルール(CPE)の導入を巡って侃々諤諤の議論が起こり、若者の暴動まで起きる事態となった。CPEは解雇規制を緩めることで、若年者の失業率改善を図ろうとしたルールである。

海老原:「その時、かの国では、日本や韓国が行っている新卒一括採用を賞賛する意見が多数のメディアで流されました。こうした声に耳を傾けず、日本は駄目だ、欧米のやり方にならえ、と主張するだけの意見には到底首肯できません」

ことごとく的外れだった7つの批判

前回からの議論をまとめてみよう。

(1)学生の本分たる学業を阻害する
→就活のスケジュールを無視した暴論。学業と就活は十分、区分けされている。ただ、いくつ受けても内定を得られない学生には当てはまる

(2)採用活動が一時期に集中し過ぎている
→一時に集中しているから就職相場観が磨かれ、著名・大企業幻想から脱却できる。通年採用になると、幻想を見続ける学生が増える

(3)採用活動のスタートが早過ぎる
→内定率が下がる危険性がある

(4)総合職採用だから大学の専門が活かせない
→大学の専門と関係ない仕事に就くのは欧米でも当たり前。異動が豊富でチャレンジが何度もできる総合職採用のメリットにも目を向けるべき

(5)正社員になるチャンスが新卒時に限られる
→昔から中小企業はフリーター含め、中途採用を活発に行っているし、最近は大手企業も第二新卒という形で若手の中途採用枠を広げている

(6)既卒の就職チャンスが奪われる
→だからといって、既卒3年まで新卒扱いという施策を採ると、未就職者や社会人が加わるため、採用枠・基準が変わらないという前提でいくと、大多数の新卒者は今まで以上に厳しい状況に追い込まれる。未就職者にも新たな道は開けない

(7)欧米型採用を見習え
→日本や韓国の新卒一括採用は若年失業率の上昇を抑える働きがあることを無視した暴論である

中小企業への学生の誘導策を

新卒一括採用に対する批判がいずれも的外れであることはわかった。でも大学生の就職率はなかなか回復しない。就職氷河という言葉ももはや常態化してしまい、使われなくなってしまった。では問題の本質はどこにあるのか。

海老原:「大学生の数が激増したことです。企業側の採用枠は減ってはおらず、むしろこの20年で増えているのですが、学生の増加には到底、追いついていません」

図表3:大学卒業生数と就職数

解決策はないのか。ある。本レビューでも度々、触れられていたように、喉から手が出るほど新卒を欲しがっている中小企業がこの国にはごまんとあるのだ。

以下はワークス研究所の「新卒求人倍率調査」だが、中小企業は学生にとって超売り手市場となっている。

図表4:リクルートワークス研究所調査「新卒求人倍率」(2011年卒)

海老原:「日本型採用は後進的で、欧米型を先進型と見なす風潮を改めなければなりません。しかも、問題を混乱させているのが、雇用や実務の専門家ではない人たちが自分たちの感覚だけを頼りに物申していること。対象を中小企業まで広げれば求人は潤沢にあること、新卒一括採用重視はごく限られた人しか入れない大企業が採っている風習であり、そこだけクローズアップしても問題の解決につながらないことに早く気づくべきです。何より必要なのは、学生の意識を早くから中小企業に振り向ける官民あげての施策なのです」


膨大なデータと血の通った事実を次から次に繰り出し、通説を小気味よく論破していく海老原節は今回も健在だった。日本における新卒採用とは何であって、何でないか。その意味を改めて噛みしめた方(人事担当者)も多かっただろう。ある聴衆の方が最後に漏らした「われわれがやっている採用手法が間違っていないことはよくわかった。問題は、そうやって企業に採用され社会に出ていく若者に、人事として、あるいは先輩として、どんな就業観を提示できるか、ということだ」という感想が印象に残ったことを付け加えて本稿の結びとしたい。

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