一般企業における見舘理論の取り入れ方

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人材育成というのは古くも新しくもない、普遍的な人事のテーマである

去る9月16日に行われたHRmicsレビューの概要をお伝えする3回目のレポートです。今回は第二部の様子をご報告します。第一部の講演者、北九州市立大学キャリアセンター准教授の見舘好隆氏に、人事マンとしても豊富な経験を持つ中央大学大学院 戦略経営研究科 特任教授の中島豊氏が加わり、第一部で展開された日本マクドナルド(以下、マクドナルドと略記)の人材育成メソッドを、どうやったら一般企業で活用できるか、という議論が展開されました。ファシリテーターをつとめたのがHRmics編集長の海老原嗣生です。※2010/10/21の記事です。

エントリー人材の科学的育成法

中島氏は以前、アメリカに本社をもつ衣料品の製造販売業、ギャップジャパン(以下ギャップと略記)の人事部長を務めており、その成果を『非正規社員を活かす人材マネジメント』(日本経団連出版)という書籍にまとめている。冒頭、海老原が、見舘理論と、当該書で展開されている中島理論の近似性を指摘し、こう述べた。

海老原:「両社とも人材育成の基本は行動基準の徹底だ。それがあるからこそ、マニュアルに記載のない突発事項が起こっても、うまく対処できるようになっている。マクドナルドのさらに巧みな点は、日々の仕事をこなす過程で、自然に行動基準が身につく仕組み化がなされていること。そして、その仕組みは顧客接点人材だけではなく、ナレッジワーカー=ホワイトカラーの育成にも応用できるはずだ」

それを表したのが次の図表だ。

ナレッジワークの「仕組み化」

ギャップとマクドナルドの共通点

ギャップには中島氏が人事部長だった当時、①常に前進、②責務の完遂、③賢いリスクテイク、④一人ひとりがキープレイヤー、⑤目指すは一歩上、⑥シンプル・イズ・ベスト、⑦正しい行動、という7つの行動基準があった。

海老原のみるところ、マクドナルドは、そのうち、①から⑤までの主要な5つを、それぞれ、①僅少階段、②理念と評価尺度の埋め込み、③昇降モチベーション設計、④ポジティブ・ピア・プレッシャー、⑤「伸びしろ」「のりしろ」型の職務アサインメント、という形で実現しているというのである。

この5つを一つひとつ見ていこう。

小刻みの階段は上がりやすい

最初の「僅少階段」というのは、能力等級のレベルを細分化し、クルー(マクドナルドのアルバイト)が、1、2ヶ月でそれぞれをクリアしながら、無理なく、能力を伸ばしていけるような仕組みのこと。通常の会社の人事制度では、入社後3、4年目までたった一つの階段、というのが普通だが、これでは成長に個人差が生まれ、人材のレベルにばらつきが生まれてしまう。「そのリスクを回避し、若年者の確実な育成を実現するために、この仕組みを活用できないか」という海老原の問いかけに対して、中島氏はこう述べた。

中島:「20年前は不可能だったが、今は可能だ。というのも、大企業を中心とした多くの企業では、入社後3年から5年の間は能力等級を変えず、処遇差もつけない、というやり方が一般的だったが、今ではそのやり方が変わってきているからだ。もうひとつの理由は、若年ホワイトカラーの仕事が昔と様変わりしてきており、現場に近い仕事を任される人が増えた。そういう人に対しては、マクドナルドのように、小刻みの能力等級を設けるというやり方は使えるかもしれない」

といっても、等級の数が多すぎると運用に困難が増す。加えて、ホワイトカラーの仕事は、現場の仕事と比べ、中身の定義が難しい上に、変化しやすい。海老原は、そういう仕事の特性を踏まえ、全社的か専門的かといえば全社的、普遍的か一時的かといえば普遍的な仕事に限ってのみ、能力等級を細分化させることを提案した。

僅少差をホワイトカラーで実現するには

中島:「うまくいくかどうかは職種による。例えば販売のような職種には適用できるだろう。制度設計はどんな職種でも可能だが、最大の問題は運用だ」

ケチャップはなぜ真ん中に塗るのか

次は「理念と評価尺度の埋め込み」である。マクドナルドのマニュアルには、あらゆる仕事に関して、「何を、どんな手順でやればいいのか」ということに加えて、「どうしてそのやり方が最善なのか」という行動の背景や理念、そして仕事が完了した後の理想的な状態の説明もきちんと記載されている。

例えば、ケチャップはバンズの真ん中に塗るべし、とクルーは教えられる。その理由は、

上下左右、どこから食べても、同じ味がするということを重視するからだ。そこから、クルーが学ぶのが「平等・公平・均質」という理念である。そして、その通りにできているかをチェックするために、さらに「ケチャップがはみ出さない」「逆さにしても全体が崩れない」という基準が明示されている。

見舘:「ケチャップの例は理念を埋め込みながら、スキルを教えるという好例だ。日々の仕事のなかに理念を埋め込む仕掛けがある。それがマクドナルドの人材育成の優れた点である」

中島:「この仕組みはホワイトカラーにも適用できると思うが、運用面に不安が残る。ただし、業務がまだ単純で、基準や目安をつくりやすい新人レベルであれば十分、可能だ。もちろん、大前提として、個々の職務に必要な能力を明確に社内で定義する必要がある。有名なのがイギリスのNVQ(National Vocational Qualification:職業能力評価制度)という仕組みだ。日本でも同じようなものを作ろうとする動きがあるが、あまりうまく行っていない。日本の場合、伝統的に職務という概念があまりなく、普遍的な能力という観点から能力等級を設定している場合が多いからだろう」

恥ずかしいと思うと人は挫折する

さて、3つ目は「昇降のモチベーション」である。これは最初に説明した僅少階段と密接に関係している。すなわち、そこで生まれた差を、時給額や、(制服に着ける)バッジ・シールの数、着用可能な制服の種類などに反映させることで、成長度を可視化し、結果として、能力の序列化を実現させていることを指す。これによって、互いに競い合い、成長しあう風土が実現しているのだ。

見舘:「マクドナルドのクルーが頑張るのは、お金が上がるというより、シールの数を増やしたい、特別な制服を着たい、という欲求からだ」

海老原:「私はわざと『昇降』という言葉を使った。つまり、同僚に比べて、自分が上に行けず、取り残されると恥ずかしいから頑張るのではないか。その辺りはいかがだろう」

中島:「これまで人事を担当してきた経験からいうと、『恥ずかしい』という気持ちを抱いた途端、目の前の階段がとてつもなく高いものに見えてしまう。そうではなくて、周囲が暖かく励ますような職場でなければ、本人のモチベーションは上がらないはずだ」

周囲からのポジティブなプレッシャーが最大のモチベーションになる、ということだろう。

異なる職種の協働を促進する

さて、4つ目は、まさしくそのポジティブ・プレッシャーの効果である。海老原が着目するのが、ハンバーガーなどの商品を作り置きせず、注文を聞いてから作り始めるメイド・フォー・ユーというやり方である。

ポイントは、それによって製造工程を顧客から見えるようにしたこと。「(商品を)早く出してくれないかな」という顧客からの(無言の)プレッシャーを製造担当者も共有するようになった。販売と製造が問題意識を共有することで、互いの当事者意識も高まり、成長が促進されるようになったのである。これがポジティブ・ピア(同僚)・プレッシャーである。

海老原:「ホワイトカラーの現場でも、事務と営業、製造と営業など、サービスと営業など、異なる部署の二人が協働する場面を作り出すことで、同じような効果が期待できるのではないか」

中島:「面白い試みだが、組み合わせによっては、相互監視機能が働かなくなり、利益相反などのコンプライアンスの問題がネックになる場合もある。同じ部署で、違う仕事を担当している同士をやらせてみたらどうだろう」

つまり、編隊型営業などに、真っ先に用いるべき、というところだろう。

背伸びと胸張りで人は育つ

最後の5つ目が、「伸びしろ」と「のりしろ」型の職務アサインメントである。これは、現在、習得しているレベルの仕事より、もう一ランク上(=伸びしろ=背伸び)の仕事と、関連する別の職種(=のりしろ=胸張り)の仕事を割り当てることで、本人のチャレンジ精神を伸ばすことだ。職務の割り当てがやりやすくなるので、上司にとってもメリットがある。

中島:「ホワイトカラーにこのやり方を適用する場合、本人の適性や仕事量をきちんと把握できる、優れた上司がいることが前提条件だ。さもないと本人がつぶれてしまう」

見舘:「マクドナルドでなぜこれが可能になっているかといえば、各人の能力がシールによって可視化されているからだ。逆にいうと、そういう職場でないと実践は難しい。さらにいえば、1人が失敗しても周囲がカバーし支え合うような風土がない職場でも実現は困難だろう」

海老原の最後の提案は、マクドナルドの人材育成の基礎にあるアサーティブなフィードバック(=人の話をよく聞き、前向きに評価する)を加え、この仕組みを自分できちんと運用することを、若手リーダーのマネジメント手法習得プロセスの一環として活用することだ。

海老原:「日々の仕事を通じて、理念を浸透させる力、何をどうやってやればいいのか、という説明力、何によって部下の仕事をチェックすべきかという評価眼、さらに、頭ごなしに叱るのではなく、人のよい点に着目する力、育成を考え、仕事を割り当てる力、以上5つの力がこれによって培わる。これこそ、対人マネジメント力の基本中の基本だ。これをマスターして、あとは戦略マネジメント力を勉強すれば、マネージャーとして鬼に金棒である」

人材育成というのは古くも新しくもない、まさに普遍的な人事のテーマである。今回のレビューを通して、我々が日々、利用している飲食店や物販店には隠れた知恵がまだまだ眠っているだろうということを実感させられた。我々はそういう知恵を今後も掘り出していくつもりである。

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