リクルートエージェントが2008年10月に創刊した人事専門誌『HRmics』。発行の翌月に、誌面では紹介しきれない生の情報をお伝えするHRmicsレビューを開催しています。今回は、1月19日にリクルートエージェント社内で行われたレビューの様子をHRmics副編集長の荻野が報告します。今回のテーマは編集長、海老原嗣生による採用アセスメント論です。※2010/02/04の記事です。
「これから取りかかる行為の結果や影響を事前に試算したり精査したりする行為。これをアセスメントという。環境アセスメントという言葉はもはや一般用語だが、人事の世界でアセスメントといえば、採用場面で活用される人事テストや検査を指すことが多い」
そういった基礎的な定義の話題から入った海老原の話は、アセスメントで測れるもの・測りにくいもの、アセスメントの種類、職務適性診断の仕組みといった基礎篇をまずおさらいした。
その後、力を込めて話し出したのが「アセスメントはどのくらい有効か」という問題。アセスメントによって明らかになる職務適性と実際の仕事実績の相関関係を調べると、適性で説明できる割合は個人の業績の最大16%にしか過ぎない。残り84%は、上司や先輩の指導や協力が奏功した、いいお客さんに恵まれたなど、それ以外の要因が関係しているという。
海老原「アセスメントで示される適性というのは初めてその仕事に就いた時のストレスの高低を示す程度で、入社後の業績を決定づけるものではないのです」
例えば「営業適性が高い」と診断されたAさん、逆に「低い」という結果が出たBさんがいたとする。最初は、なかなか売上が伸びず、つらい思いをするBさん、最初からそこそこ売れて仕事が楽しいAさんという図式が成立していたが、悩んだBさんは試行錯誤を繰り返した結果、情報収集や分析が得意という長所を生かし、企画提案型営業に目覚め、売上を伸ばすに至る。一方のAさんは素のままで仕事をして実績が上がるので、内省も試行錯誤もしない。営業スタイルは元気とやる気で勝負する入社時のままで、とうとう数年後にはBさんに抜かれてしまう。
そう、アセスメントによる適性結果はあくまで現時点の向き不向きを測るものであって、不向きをカバーする別の能力(Bさんの場合は情報収集力や分析力、内省力)を度外視しているのだ。人事の方なら容易におわかりだろう、「入社のときのあいつはひどかった」と言われていた人物が、往々にしてトップセールスになっていく事例をよく見かけるだけに―。アセスメントは入職ストレスの高低であり、その後の業績すべてを占うわけではないのだ。
アセスメントの実施によって受験者の性格傾向がわかった。それらと、高業績を上げている既存社員の性格傾向を照らし合わせ、同じような人を選別して採用すればよいわけだが、問題は合否を分ける基準点をどう決めるか、ということだ。ここが難しい。
それについて海老原は具体例を用いながら、こう説明する。「社内の高業績者を見ていくと、内向性・自責性・敏感性がいずれも低く、身体活動性・達成意欲は高い、という性格傾向が確認できたとします。高業績者の80%が内向性が低い、同じく自責性が低い、敏感性が低い一方、身体活動性は高く、達成意欲も高い、というわけです。この場合、すべての条件に合致する高業績者は少数派、ということに気づいてください。5因子すべて、その条件に合致する人を採用しようとすると、0.8の5乗は約0.33ですから、高業績者のうち、33%しか該当しないタイプを採用することになる。つまり、社内のハイパフォーマーの67%を切り捨ててしまうような選抜では、将来の高業績者を取り逃がすリスクが大きくなるのです」
一方、足し算で行く方法もある。着目すべき因子の合計点で決める「合計得点法」だ。この方法だと、合格のカバー範囲が広がり、「何かが強い人」を確実に残すことができるが、タイプの異なる人材がたくさん混在してしまうという欠点が生じる。そうなると、組織風土の一貫性が保てず、社員のマネジメントに大きなエネルギーが必要になってしまう。
海老原「そうしたデメリットを解決するのが『ピーク1ボトム1法』、つまり特徴が強く、社風としても尊重したい重要な因子(=Peak1因子)に絞り、それが低い(=Bottom1)人のみを落とす、というやり方です。こうすると、同じようなタイプの人間が集まるので、組織風土の一貫性が保たれ、マネジメントや育成がしやすくなるというメリットも生じます」
こういう場合、よく使われる因子項目としては「達成動機の強さ」があるという。逆に言えば、採用アセスメントは、達成動機の強い組織を作るための風土改革にも活用できるということだろう。
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