「新卒と中途採用」リミックスの方程式(後編)

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採用は人事の基本。新卒と中途を同じ採用という枠組みでとらえてみます。

リクルートエージェントが昨年10月に創刊したのが人事専門誌『HRmics』です。発行の翌月、誌面では紹介しきれない生の情報をお伝えする「HRmicsレビュー」を定期的に開催しています。引き続き、去る9月15日にリクルートエージェント社内で行われたレビューの概要をお届けします。

今回は、HRmics 編集長海老原嗣生の講演内容をお伝えする第二回目。新卒・第二新卒・中途の最適な採用方程式を明らかにします。※2009/11/05の記事です。

新卒採用のメリットとは

新卒採用に対する世間の批判は昨今、非常に厳しい。職歴もない学生を採用するのはバクチだ、離職が激しい昨今では投資価値が低い、この制度があるために学生は就活で忙しく勉学がおろそかになる―本当にそうなのか?そもそものメリットを考えてみよう。

中途に比べて採用コストが低い、大量募集ができる、同時期の一括受け入れが可能、という即物的な点とは別に、海老原は、次のようなメリットを指摘する。

まず、本人が受けるメリットが3つある。1つ目は「お目こぼし効果」。「どうせ新人なのだから確たる成果はなくてもよい」というお目こぼしがあり、目標もほとんど持たない。その結果、それぞれの仕事の意味や、顧客視点といった後々の仕事人生で大切なものが培われるというのである。最初から高い目標を持たされる「中途採用」ではこうはいかない。2つ目が「多職務経験効果」。リーダーになるまでに時間があるので、ゆっくりと多部署を回りながら経験を積むことが出来る。その結果、部分最適ではない、全社視点が培われる。3つ目は「OJTによる叩き上げ効果」。手取り足取り、じっくり育ててもらえるので、言葉にできない暗黙知や理念の共有が行われる。

これに加え、社内に対するメリットとは何だろうか。

海老原:「まず挙げられるのは『後輩出現効果』です。今まで一番下だった人に後輩ができると、その人は指導役を任されるわけです。人に教えることで人は育っていく。つまりマネジメント力が上がるのです。もうひとつは『リクルーター効果』です。リクルーターとなった人は学生たちに自社の理念や魅力を繰り返し説かなければなりません。採用活動を通じて、企業ブランドが社内に浸透していくという副次的効果が望めるのです」

図表1:「新卒採用のよさ」とは何か

バブル崩壊期に、新卒採用を長期にわたり抑制する企業が相次いだ。そうした企業は新卒採用の数あるメリットを享受していないことになる。では、こうした採用抑制は何年くらいなら続けても良いのだろうか。1、2年の短期であれば問題ないが、3年以上だとダメージが大きい、というのが海老原の結論だ。

海老原:「1、2年のブランクなら、第二新卒採用をやればある程度補充できるからです。ところが、抑制期間がそれ以上になると、下の人間がいつまでも下っ端となり精神的にも仕事の面でも一人立ちができなくなる。またブランクを経て新人が入ってきても、年次の近い先輩がいないので相談相手に困りますし、社内の年齢ピラミッドが崩れる、日進月歩で進化する採用ノウハウの伝承が途絶える、といった人事上のデメリットも生じてしまうのです」

第二新卒が脚光を浴びた本当の理由

さて、新卒抑制の代替となる第二新卒採用だが、この採用手法の歴史は想像以上に古い。前回の(その1)で述べたように、若年者の転職率が高いのは世界的傾向である。日本企業も同様で、25歳位までの若者を第二新卒として採用し続けてきた。

海老原は、ここ20年間、大卒後3年間での転職率は3割前後とさして変わらないこと、ここ50年間、24歳以下の転職者数が20万人を下回ったことがないことをいずれもデータ(厚生労働省)で示しながら説明し、「第二新卒」は決して目新しい現象ではないと強調した。ではなぜ最近になって俄然、脚光を浴びるようになったのだろうか。

図表2:90年代に第二新卒市場に大手が参戦

海老原:「バブル崩壊後の不況が深刻で、しかも長期に亘ったため、その後約4年間、大企業は新卒採用を抑制しました。そして直後のかげろう景気が長かったこともあり、95、96年に、採用抑制で生じた穴を大企業が軒並み、第二新卒採用で埋めようとした。第二新卒という言葉が世間に広まる最初のきっかけがこれだったのです。

さらに、2000年に入って職業安定法が改正され、転職エージェントも新卒対象のサービスを行うことができるようになりました。企業は当時、大がかりなリストラを進めていたため、公募という形では第二新卒をおおっぴらに募集できない。そこで、目立たず募集できる転職エージェントに第二新卒は任せようということになり、エージェント側もサービスの充実に努めた結果、ますます第二新卒の認知度が高まっていったのです」

新卒と第二新卒、それぞれのメリット、デメリットはちょうど入れ子の関係になっている。新卒は採用コストが低いが、第二新卒は高い、一方の教育コストは新卒のほうが高く、第二新卒は低い、大量採用が可能なのが新卒で、ニーズに応じて数を調整できるのが第二新卒、未経験で染まっていない分、教育に手間がかかるが一から自社のカラーに染められる新卒に対して、第二新卒は他社経験があるためある程度の教育は省けるが、余計な“色”に染まっている可能性がある、といった具合だ。そのため、メリット、デメリットをよく勘案し、バランスよく採用すべき、というのが海老原のアドバイスだ。

最適な新卒採用人数はどのくらいか

さて、講演のいよいよ本丸である。新卒採用の最適人数はどのくらいか、という問題を考えてみよう。

図表3:新卒採用の最適数とは?

標準的な企業として、メンバー10名で1つの課を構成し、5つの課が集まって1つの部(50名)となっている組織を想定してみよう。この企業では、ライン(営業や製造など売上げを上げる部門)に7割の人員をあて、スタッフ(管理部門)に3割をあてているとする。いずれの数字も一般的な割合だろう。

まずは好況期における採用数の上限はどのくらいに抑えるべきか、という問題だ。「新人は課に1人が上限」という人事格言がある。2人以上の新人を入れてしまうと、教育係も2人必要になる。こうなると、それぞれの教育係の方針や個性の違いにより、新人に成長差が生まれてしまう。だから「課に1人が上限」なのだ。この格言に従うと、採用数の上限は課に1人、つまり10人に1人=全従業員の10%が新卒採用の上限となる。

一方で、「新人は部に2人が望ましい」という格言もある。同じ部なら顧客や商品なども同じだから、同じ環境で互いに相手を意識させ、困った時は相談もできる、よきライバル関係を作ることができるという考えである。これを通常期の採用に適用すると、部(50名)に2人=全従業員の4%にあたる。これが標準的な新卒採用適正数となる。

続いて、不況時の採用抑制だが、「新人の数が少ない場合、スタッフ部門よりライン部門に入れた方が良い」という道理がある。なぜライン部門を重視するのかといえば、まず、スタッフ部門には、ラインからローテーションで随時若い社員が供給されることがある。つまり、新卒採用に頼る必要がない。また、スタッフ部門、特に経理や情報システム、マーケティングなどはOFFJTで仕事を学べる部分が大きいが、ライン部門はOJTで先輩の背中を見て学ぶ仕事が多い。そのため、新人が配属されることにより、教える側も「教える力」を身に付けていく。この道理に従い、不況時の採用はスタッフ部門をゼロに押さえると(スタッフ部門とライン部門の比率は3対7なので)、新卒採用は7割に抑えられる。ライン部門の採用も、各部に2人のところを1人に削減すると、通常の年に比べて35%(≒3分の1)に抑制できる。全体としては、通常時の適正値である従業員比4%を1.4%程度まで減らせる。これが、不況期の採用抑制の1つの目安となるだろう。

景況別の採用ターゲットと戦略を考える

さらに、第二新卒、素養系・ミドルスペシャリスト、シニアスペシャリストを含めた、景況別の採用戦略をまとめたのが下の図表になる。

図表4:理想的な景況別採用リミックス

海老原:「不況期には質の採用、好況期には量の採用、というのが基本的な考え方です。第二新卒に関しては、前年あるいは前々年の新卒抑制分を補充するわけですから、採用数の上限は、同年次の新卒入社組の数となります。素養系・ミドルスペシャリストは、前回述べた『課長の壁』を突破するだけの能力と経験を備えた人材、ということを念頭において選考するべきでしょう。シニアスペシャリストに関しては、異業界・異業種出身のユニークな人材を採る好機となるのが不況期です」

採用は人事の基本である。今回は、新卒と中途を分けることなく、景気動向をにらみながら、同じ採用という枠組みでとらえてみることを提案した。

今回、詳しくは触れられなかったが、“新卒採用”悪玉論者の間には新卒採用は日本独特のもの、という誤解がどうもあるようだ。しかし実態を探ると、韓国や中国にはきちんと存在しているし、欧米の企業でも新卒採用を行っている企業はむしろ多い。

採用も時々刻々変化する。日本の大手企業は業績悪化による採用抑制で生じた世代の穴を埋める「第二新卒」という手法もマスターした。新卒採用は当分、滅びないだろう。悪玉論者の歯ぎしりはまだ止みそうにない。

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