昨年は予想通りに、アベノミクスによる好況が顕著になった1年でした。ただし、世の中の統計データほど、求人環境は盛り上がっていないという声も多く聞かれます。このあたりの真相はどうなっているのか。そして、今年こそ、本格的な環境改善が起きるのか。HRmics編集長の海老原が、わかりやすい解説を2回にわたってお送りいたします。※2014/01/23の記事です。
昨年のこのコーナーの予測を振り返ってみよう。
まず、2013年1月17日号(2014年の増税で景気は悪化しない、これだけの理由)では、当時まだ不況風冷めやらぬ状況ではあったが、「山高ければ、谷深し、の逆で今回は、山低ければ、谷浅し」であり、早々に不況は終了して景気回復に向かうと予測。
その理由として、アベノミクスの金融緩和が効く(5/2号:なぜか、景況感が日に日に高まっている?)と明言。緩和で悪いインフレ(コストプッシュ型)のみ起きるのではなく、海外現地法人の利益が底上げされる決算資産効果を説明した。当時、国内での賞与アップが騒がれだした時期でもある。同時に、国内での設備投資の回復はまだだが、既存工場の稼働率アップが起きだしていることを、派遣などの非正規需要の上昇から見てとった。
また、大手新聞やテレビ局の政治記者情報として、オリンピックの日本招致が成功する可能性が高いことも、1/17号と5/9号でレポート済みだ。正直、開催決定日のテレビ中継で「TOKYO」を聞いたときは、してやったりの気持ちでもあった。
また、9/26号では、4~6カ月のGDP細目で「投資」が低かったことに関しても、「これは消費拡大期に生産が追いつかず、在庫が減る(=在庫投資が減る)ことで起きる、好景気入口での恒例行事」だから心配ない、とも書いた。こちらも7~9月期に予想通り反動増が起きている。
ということで、ここまでのところ、ざっくりいえば、予想はかなり「当たり」に近いものと自画自賛している。
ところが、反省しなければいけない大きな問題点が実はある。
こうした流れに沿って、「オリンピック招致が決まれば、それこそバブル突入」(1/17号)とまで書いている。確かに、株式市場は年末に海老反り最高値をつけ、本年中に2万円!という声も聞かれるほど、バブル前夜の様相を呈しつつある。
がしかし、この連載の目的でもある人材需要の方は、上げ潮ムードではあるが、「バブル」とまでは到底いえそうにない。
つまり、一番肝心な人材動向では、納得いかない予想となってしまった。
今回はこの点について、真っ先にお詫びと振り返りをしておくことにしたい。
数字的にはどこをとっても「採用バブル」のはず?!
では、現状の景気と求人について、まずはデータで示しておきたい。
景気については、景気動向指数(ci)を図表1にした。
現在は、一致指数も先行指数もともに110を超える高い水準にある。両者ともにこの水準を保つのは、なんと、リーマンショックのはるか以前、2007年の7月以来。そう、まさに、日経平均株価が2万円に近づき、景気がバブルの様相を呈していた、あの頃と同じ水準なのだ。
一方、求人環境はどうだろうか?こちらは有効求人倍率を図表2にした。
昨年末には倍率が1を超え、3カ月移動平均値で見ても0.98とこれまた高い水準を示す。こちらも、2007年10月以来の活況を示している。数字的には私の予測通り「バブル」としかいいようがない。ところが、アナログに求人市場をとらえると、盛り上がりはそこまで感じない。
なぜ、これほど数字と体感値が異なるのだろうか?
一因として考えられるのが、企業内の過剰雇用だ。こちらが高ければ、いくら見た目上の新規求人が増えて有効求人倍率が上がろうとも、企業はまだまだ社内に余剰人員を抱えているため、採用にそれほど本腰を入れない。実際、2002年にITバブル崩壊から立ち直りつつあった景況下で、景気がよくなれども、求人が盛り上がらなかった原因は、当時まだ社内に余剰人員を多くかかえ、過剰雇用が高い水準にあったことが挙げられる。
というわけで、この過剰雇用を示す、日銀短観の雇用DI(高ければ過剰雇用が多い、低ければ少ない)を図表3にしてみた。
こちらでは、件のとおり2002~2003年に過剰雇用が高い水準にあり、そのため、求人の盛り上がりが遅れたことがよくわかるが、現在は、全くその逆。リーマンショック後、一時的に高めの数字は記録しているが、その後すぐ、過剰感は収まり、現在は、マイナス(不足感が高い)にある。水準的にはこちらも、2006年中盤と同様であり、やはり、バブル的数字となっているのだ。
言い訳をするようで恐縮なのだが、数値的には、どこをとっても「求人バブル」が起きていておかしくない。それが、現在の状況なのだ。
さあ、いよいよ、この不可思議な状態に対して、理解可能な説明が必要になるだろう。
その答えは、二つのキーワードで導き出せる。
一つ目が、「逆たそがれ効果」。もう一つが「景気動向の形」。
いずれも、この連載を読んでいただいている人からすれば、「何度か聞いた話」なので、少々くどく感じられるかもしれないが、以下、再度説明をさせてもらう。
たそがれ効果とは、ジョージ・ソロスの造語であり、詳細は2013年1月17日号に書いたとおりだ。好景気が長く続くと、経営者は、人員や設備、原料購入などの投資にブレーキを踏まない癖がつく。自社がブレーキを踏んでしまえば、ブレーキを踏まなかった他社においてけぼりを食うからだ。その結果、景気がピークアウトしても、投資が続くことになる。そうすると、景気下降期に入っても、採用や設備投資、原材料購入が続くため、それらを通して資金が流動し、なかなか景気が冷えないという状態になる。それを「日は暮れているのに、まだ明かりがさす」という意味で、たそがれの時、とソロスは名づけたのだ。
ただし、その先には、カタストロフ(破局)が控えている。こうして投資が続いた結果は、過剰雇用、過剰設備、過剰在庫を積み重ねることになるからだ。つまり、景気が本格的に冷えた時、今度は3つの過剰を処理するために、なかなか回復にいたらないということになる。こんな状況が、「山高ければ、谷深し」という株式格言につながるわけだ。
現在は、この逆と考えればいいだろう。もうそろそろ景気が本格回復するか、とアクセルを踏むと、その先また景気が不安定になる。そんな環境が長く続いたため、アクセルを踏まない競争が起きてしまった。だから、各種数字が高水準にあるにもかかわらず、求人環境に本格的な盛り上がりが感じられない状況なのだ。
ただし、ここまで景況が回復しているのに、求人が滞っていると、そのしっぺ返しがどこかで一気に起きる。その時こそ、本当の求人バブルになる。それが今年ではないかと、私は読んでいる。
なぜ、経営者がアクセルを踏まない病になっているか、を説明するのには再びci値の推移を見てほしい(図表1)。
見事なほどに、アクセルを踏もうとした瞬間に、景気が不透明になるという連続がこの4年間だった。そうして、今、最後の不安要因が目の前に迫っている。言わずと知れた、「消費増税」だ。このあとまた、増税不況が来る可能性が高いから、とても本気で採用などできない。現場の人材枯渇感は高いので、求人だけは出しているが、採用基準は下げないということで、それが説明できるだろう。リクルートの紹介状況を見てみても、書類通過率や面接通過率など、採用基準と直結するような、企業の本気度を示す指標は、1年前とあまり変わっていないのだ。
では、こうした経営者の不安通りに、またまた4月に大きなブレーキがかかり、求人は盛り上がらないのか?
この大方の予想は外れ、増税後の景気の落ち込みは意外に小さく、それも一過性のものにとどまる、という話についても、2013年1月17日号にて書いている。ダイジェストで説明すると、
こうした中では、増税による大幅なマイナスはありえないと読むのだ。
実際、1989年の消費税導入時は、上げ潮ムードにあった景気は、びくともせず、その後、2年ほど、好況は続いた。今回も似たような形になるのではないか?
とすると、増税による一時的混乱を乗り越え、夏場にはまた景気は順調軌道に復帰する。そのころ、ようやく、ブレーキを踏み続けた反動から、猛烈な採用攻勢が起きる。つまり、2014年中盤以降、ほんものの「採用バブル」が起きると予測している。
では、この採用バブルはいつまで続くか。
そして、その際に、どのような採用経路をとればいいか。このあたりの詳細については、次回、解説することにしたい。
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