人事・雇用に関する法律動向

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派遣法、有期雇用法からメンタルヘルス、勤務間インターバルまで、広く見ていきます。

雇用や働き方に世間の大きな関心が集まる昨今、関連する法律の制定や改正が相次いでいます。最大の目玉は昨年4月に国会に提出されたものの、塩漬け状態が続く派遣法改正案の行方です。さらに、昨年に引き続き、有期雇用法制の創設も議論されています。今回はHRmics副編集長の荻野氏にレポートいただきます。※2011/02/03の記事です。

どうなる?派遣法改正案

一昨年来、本メルマガでも、何度も取り上げてきたが、文字通り、「大山鳴動して鼠一匹」になりそうなのが派遣法改正案である。一昨年9月に民主党を中心とした連立政権が樹立されてから本格的論議が始まり、労働政策審議会(厚生労働省の諮問機関)におけるスピード審議を経て、急ごしらえでつくられた同改正案。製造業派遣と登録型派遣に網をかぶせる規制強化の内容であるのはご承知の通りだが、昨年3月に国会に提出されて以来、政治の迷走に翻弄され続けた。

通常国会での成立はかなわず継続審議となり、舞台は10月1日から臨時国会に移ったが、それでも塩漬け状態は変わらなかった。この1月24日から通常国会が開会されたが、予算案はじめ、重要案件が目白押しなため、相変わらず帰趨は混沌としている。

継続審議に期間の期限はないが、提出からほぼ1年が経った。このような重要法案が次の国会まで持ち越されることはないだろう。野党の意見を入れて修正し改めて審議するか、衆議院の再議決(※)を狙うか、思い切って廃案にするか、という3つの道が想定される。

※現在の国会は「ねじれ状態」にある。つまり、衆議院は与党、参議院は野党が主導権を握っており、衆院で可決したとしても、参院で引っ繰り返る可能性が高い。その時、政府が再度、衆院に法案を戻し、3分の2以上の賛成があれば法案が成立する。これを「衆議院の再議決」という。

修正作業には時間がかかるだろうし、野党が望む修正内容は「製造業派遣・登録型派遣」への規制強化を止めさせる内容になるだろうから、文字通りの骨抜きになってしまい、政府にとってあまり意味がない。

かといって、再議決は世論の支持が必須のため、ハードルは高い。

改正の急先鋒だった社民党はとっくに連立内閣から離れ、同じく改正を掲げたマニフェストの見直しも民主党内の議論にのぼっている。経済界から「成長戦略がない」と批判され、昨年12月、ようやく法人税の減税に踏み切った菅内閣。派遣法改正案は「企業の手を縛り、成長を阻害する」と、特に経済界から評判が悪いため、廃案にしたいのが本心ではないだろうか。

廃案コースは2通りある。衆院か参院の本会議で反対多数で否決されると即、廃案になるし、本会議で採決せず、継続審議の手続きにも入れない場合も審議未了で廃案となる。できるだけ、波風立たない状態が望ましい政府は後者の道を選ぶのではないか。

更新回数、利用可能期間が制限される?

派遣法改正よりもっと大きな影響を企業に及ぼすのが有期雇用に関するルールづくりである。日本においては、どんな仕事だったら有期雇用でOKか、どんな仕事はNOなのか、その場合の期間は何年まで許されるか、といった法による規制は基本的に存在しない(※)。どんな内容の有期雇用契約を結ぶかは、労使の話し合いに委ねられている。

※ただ、労働基準法14条に、1回の契約期間の上限は3年(高度技能者は5年)という規定がある。

ところが2008年のリーマンショック後、こうした有期労働契約者の解雇や雇い止めが頻発し、社会問題化したため、2009年2月から政府が研究会を主宰し、改めてルールづくりを検討し始めたのである。昨年末の政府発表によれば、同研究会が昨年9月に発表した報告書(『有期労働契約研究会 報告書』)などをもとにしながら、再度、議論を重ね、今年12月に何らかの建議を行う予定だという。ここから実際の法案づくりに入り、早ければ来年の通常国会に提出されるのではないか。

その場合、どんな規制が行われることになるのだろう。これに関して参考になるのが同報告書である。相当の力が込められ、肯定的に記述している内容が法制化されると考えていいのではないか。すなわち、以下の4つが濃厚だ。

  1. 1、更新回数および利用可能期間の制限
  2. 2、正社員の場合の解雇にあたる雇い止め法理の明確化
  3. 3、契約締結時の明示事項の取り決め等
  4. 4、その1で決められた事項に企業が違反した場合、有期雇用を無期雇用とみなすなどの法的効果の確認

反面、契約期間に上限を定めることや、有期契約の締結事由の規制、正社員との均衡待遇の確保などには積極的な評価をしていないので、それらが法制化される可能性は逆に低い。

人事が気になるのはやはり「その1」だろう。報告書は、更新回数については3回(ドイツ)、利用可能期間については、2年(韓国)、4年(イギリス)という諸外国の例を引きつつ、3年という数字を出している。更新回数の上限は3回、利用可能期間は3年。このあたりが基準になるのだろうか。

ただ、回数や期間が制限されるとしても、たとえばイギリスでは、①客観的に正当化される理由がある場合、②労働協約などで認められた場合は制限が適用されない。法制化に当たっては日本でも、こうした特例が認められるだろう。

受動喫煙、メンタルヘルス対策の強化

この有期雇用法制に先んじて、早ければ今年の通常国会に上程されるかもしれないのが労働安全衛生法の改正案である。昨年末に労働政策審議会の専門部会の報告書が厚労相に提出された。ポイントは2つある。

ひとつは、職場における受動喫煙防止対策の強化である。報告書は、一般の事務所、工場の全面禁煙もしくは喫煙室の設置を求めている。ただし、違反者に罰則までは課さない。当面は国による指導が中心になるべき、と書く。

もうひとつがメンタルヘルス対策の徹底である。何らかの対策を行っている事業所の割合を2007年時点の34%から100%にするのが目標だ。

具体的には、専門医による労働者のストレス状態の定期的なチェックと、専門医が「必要だ」と認めた場合の面接指導を企業の義務とする。2006年4月から施行されている改正労働安全衛生法で、長時間労働者を対象にした専門医による面接指導が義務化されているが、それと同様のものになる。

企業は面接指導の内容などをもとに、労働者に不利益な取り扱いをしてはならないというが、報告書は具体的な不利益の内容にまでは踏み込んでいない。常識的に考えると、減給、降格などが考えられる(上司とソリが合わないことなどが原因でメンタル疾患を発症した場合、配置転換はかえって利益になる)。

平日もしっかり休めるための制度

さて、最後に、法制化に至るにはもう少し時間がかかりそうだが、労使協定レベルで徐々に広がりを見せている取組みを紹介しよう。残業をした場合、翌日の勤務開始まで一定の休憩時間の確保を義務づける「勤務間インターバル規制」というものだ。

もともと、長時間労働を規制するためにヨーロッパではじめられた制度で、1993年制定の「EU労働時間指令」に基づく。そこでは、企業は労働者に、1日24時間につき最低11時間、7日につき最低連続24時間の休憩を与えなければならない。つまり、午後11時に仕事が終わった場合、翌日の仕事開始は早くても朝10時になる。

そうなると、1週間の最長労働時間が自動的に決まる。1週間の総時間は24かける7で168時間。休日の24時間を引くと144時間となる。稼働日6日分の休息時間が11かける6で66時間分あるから、それを引くと78時間になる。これが、昼食時間など勤務時間中にはさまる休憩時間を含めた1週間の最長労働時間になる。(図を参照)。

勤務間インターバル規制

日本における時間外労働は、労働基準法33条2項の規定によって、1週あたり15時間、1か月45時間などと決められている(労働省告示による)が、実際は特別条項により、その上限を超えて働かせることが可能だ。つまり残業の上限規制が事実上存在しないのだ。

それに加え、休憩時間に関する規定は「労働時間が6時間を超える場合は最低45分」「8時間を超える場合は1時間」といったように、労働時間内のそれに関するものしかない(労働基準法34条)。

こうしたなか、224組合、23万人の組合員を擁する情報労連が長時間労働防止のため、インターバル規制の導入に取り組んでいる。2009年の春闘で13社、2010年の春闘で2社の導入が決まった。インターバルの時間はEUの11時間よりは短く、10時間が2社、8時間10社、7時間1社、8時間プラス通勤時間2社となっている。

すでに今年の春闘が始まっているが、連合は、(先述した)事実上、骨抜きになっている残業時間の上限規制の遵守を徹底するとともに、このインターバル規制の導入も訴えている。ワークライフバランスの重要性はますます高まっているので、この制度、案外早い速度で広まるかもしれない。

労働側にとっては歓迎すべき制度だが、企業側にとっては人件費の増加につながる可能性が高い。新たな人を雇い入れないと仕事が廻らない職場があるからだ。人件費がどれだけアップするか、シミュレーションしておくべきだろう。

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