グローバル人材の流動化-新興国から日本の人材へ、2度目のラブコール

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新興国の「熟練日本人獲得」の流れが、流通サービス業にも波及しています。

韓国の鉄鋼メーカー、ポスコと新日鉄が、方向性電磁鋼板という高級鋼板の技術を巡って、裁判で争っています。そもそも、新日鉄の独自技術であった方向性電磁鋼板の製造技術はなぜポスコに流れたのか?5月26日付の産経ニュースによると、「1990年代に新日鉄を退社した開発担当者を含む数人が関与した」とのこと。リストラと人材流動のグローバル化、という最近の流れは、思わぬ鬼子を生み出してもいるようです。こうした日本の先端人材を狙う新興国の動きが、最近、新たな展開を見せ始めました。HRmics編集長の海老原がレポートいたします。※2012/09/06の記事です。

流通業が新たな戦場に

リーマンショックを境に、欧米系企業が自社事業を新興国や日本の企業に売却する流れが続いている。野村ホールディングスが、リーマンの衝撃覚めやらぬ2009年に、そのリーマンブラザーズのアジア部門を救済合併したことが代表例だ。当初は北米系企業が資産売却の主役だったが、現在は金融不安におびえる欧州系企業が中心となっている。最近では、みずほコーポレート銀行がドイツ州立銀行のブラジル子会社を買収したことなどが記憶に新しい。

こうした企業の業績下降に伴い、人材も大量に移動することになる。

M&Aが起こればある一群は買収先に移るだろうし、事業整理ならば、退職優遇制度を利用して他企業に移る一群が発生する。そう、確実に人材の流動が起きるのだ。そして、その流れは、回りまわってライバルを育てるという、皮肉な状況を生み出す。

日本でも、こうした流れが何度も起きてきた。

一例をあげるなら、JALの経営再建計画に伴って大量の早期退職者が出たことが記憶に新しい。破たん前から連綿と続く再建計画の途上で、パイロットやCAなどの熟練即戦力層が転職市場に流れた結果、新興エアラインが人材を獲得し、業績を伸張させることとなった。

もう少し古いところでは、1990年代後半の金融危機時に、日本の大手メーカーが事業再編を行い、その結果、リストラされた熟練人材が、新興国企業に三顧の礼をもって迎え入れられ、結果、中国・韓国企業を勢いづかせることにつながった。

そう、日本企業のリストラは、中国・韓国企業にとっては、絶好の「人材獲得期」、そして「技術・ノウハウ獲得材料」といえるだろう。

ただ、昨今では、ハイテク領域の日本企業はこの皮肉な連鎖に注意深くなったために、新興国企業も派手な動きはとりづらくなっている。代わって、流通サービス業が今度は「日本人材獲得の主戦場」となりつつある。今回はその状況をレポートしていこう。

日の出の勢いの中国系百貨店

中国の経済成長が今年になってスピードを落としていることが、新聞の経済面をにぎわせている。とはいえ、その数字は7.5%前後で推移し、2%前後のアメリカ、ゼロ成長に悩む欧州各国と比べると、比較にならないほどの「高成長」を続けている。

結果、一般市民の所得は増え、購買力上昇の好サイクルに乗り、中国の流通サービス業の成長は、目を見張るほどだ。しかも、購買力に伴い、生活レベルもハイスピードで上昇するため、従来のような生活必需品から嗜好品へと、消費の質までが向上し続けている。こうした1960年代の日本と似た状況下で、ブランド品を扱う百貨店の業績が急拡大している。

そのスピードを速めている理由はもう一つある。

大型商業施設を建設するためには、まず、用地の買収と、反対の声を上げる周辺商業主への根回しが重要となる。そこに時間を費やすために、日本ではなかなか思うように店舗開発が進められなかった。

ところが社会主義国の中国では、土地自体が政府所有で、原則、住民には貸与ということになっている。だから、政府の賛同を受ければ、用地確保も住民説得も非常にスムーズに進む。

そこで、日本とは比較にならないほどのペースでの出店計画が進む。

たとえば、年間20店舗程度の出店を行う百貨店はざら。中堅百貨店にいたっては、店舗数を3年で3倍、売上は5倍という計画さえも見られる。

ここまでハイペースだと、今度はテナント募集に手間取りそうなのだが、そこには中国型のノウハウがある。まず、1階は「顔」なので、こちらには欧米・日本の高級有名ブランド店で見栄えをととのえる必要がある。さすがに、こうした高級ブランドは、易々と出店を決めないのだが、中国系の百貨店側は、そこで大胆に、賃料無料、維持費の大幅ディスカウントなどを打ち出して、積極的に誘致を行う。そこまで出血サービスするのは、他で元を取れるという勝算があるからなのだ。

2階以上には、まず、売上げを確実に計算できる日・欧・米の新興ブランドショップからの引き合いが必ず入る。中国の地方都市だと、まだ交通・光熱・通信などのインフラ整備が行き届かず、治安面でも不安があるため、集客に手間取ることが多い。こうした問題がある中で、百貨店のテナントならば、安心して出店ができる。だから、引き合いが絶えないのだ。

そして、中国企業からも引き合いが同様にくる。特に、広い中国では地方ごとに地元の有名店がある。彼らは、競合企業よりも知名度や好感度をアップさせるために、「デパートへの出店」を望む。だから百貨店側が黙っていても、引き合いに事欠くことはない。テナント確保にもそれほどの苦労は不要となる。

日本の百貨店店長が人気の理由

順風満帆な中で、実は一つだけ死角がある。

こうした左うちわな状態は、百貨店が中国の一般市民にとって、高級で上質なサービスを受けられる憧れの空間であるからこそ、実現する。とすると、そうしたブランドを維持向上させることが至上命題となる。

ここでようやくおわかりだろう、そう、サービスブランドを維持向上できる人材が必要となる。

それが、日本人の百貨店店長経験者なのだ。

不思議なことに、欧米系の「サービスブランド確立のプロ」であるブランドマネジャーなどには、中国の百貨店業界の触手はそれほど伸びてはいない。ブランド戦略のヘッドワークを行うそうした人たちよりも、現場をどう切り盛りし、どうレベルアップして行くか、という実務者が重要となるからだ。

その点、日本の百貨店店長はピッタリだろう。

たとえば、

  • ・店員の募集。その際の採用基準づくり(難しい話ではなく、食品業の店員なら物覚えの良さが一番とか、アパレル業なら愛嬌を重視、といった実践的なもの)
  • ・教育(こちらも、業態ごとに、おおよそ、まずは何を教え、日々、何に注意すべきか、といったもの)
  • ・業態別の店舗面積あたりの売上げと利益の基準
  • ・お客様アンケートカードの設計や、その活用ルーティン、季節ごとのバーゲンセールの組み方や、その際の値引き目安

このような、本当に実務者としての腕が期待されることになる。

この点、日本人は異常なほどに強い。日本の百貨店の場合、有名大学を出た人材が多くそろっているが、欧米系のヘッドワーカーとは異なり、非常に長い現場経験を有する。それも、食品~アパレル~貴金属といった形で、他業態の実務経験を持つ。その後、バックヤードに移っても、外商・営業だけでなく、バイヤーや管理部門まで経験している場合が少なくない。

そう、一店まるごと隅々まで目が届く人材なのだ。

これは、成長途上の新興国百貨店にとってはとてつもなく嬉しい存在だろう。

国内他業界移動よりも心理的な障壁は少ない

では、招かれる側の日本人百貨店経験者に、抵抗はないのか?

私が覚えているのは、2000年代前半の業界再編期にリストラが行われ、多くの人材が転職市場に出た時のことだ。当時の日本は、大規模なカテゴリーキラーやディスカウンターなどの成長期でもあり、こうした新興企業から彼らに対する引き合いが多数あったが、なかなか転職は成立しなかった。百貨店は流通業のトップブランドであり、そのプライドから他業態への転職ははばかられたのと、何よりも、他業態や新興企業という、風土や業務スピードが異なる世界だということが、決断に二の足を踏ませたのだろう。

対して、今回の場合は、国は変われど、やっていることは百貨店業務となる。その部分での違和感が少ない。そのうえ、現地では「先生」として迎え入れられ、年収も下がらず、家・家具・自動車・ハウスキーパー、そして通訳までも用意されるというフリンジベネフィットが付いてくる。さらに、「課長、島耕作」時代の日本企業のように、経費とて今の日本とは比べ物にならないほど、潤沢。

そして何よりやりがい。1年で20店舗も増やすという、その成長の波に、かつての元気だったころの日本の百貨店を重ね合わせて、「夢よ、もう一度!」と考える人が多いのだ。

迎え入れる中国企業には、こうした有能でモチベーションの高い熟年日本人を重宝するもう一つの理由がある。現在45~50歳だと雇用期間も10年強。店舗を開発し切ったころには、定年となるから、後を引かない人材投資といえるのだ。

つまり、迎える側・迎えられる側、双方が嬉しい事情が重なっている。

こうして、「熟練日本人獲得」の波は、ハイテクから流通サービス業へと主役が代わった。


さてさて、実際に転職していく熟練日本人は、この異国への転職をどのように考えているのだろう。

日本のノウハウが海外に流出することに対してジレンマはないのか?

こうした問いをぶつけると、返ってくるのはこんな言葉だ。

「国籍ではなく、お客さんが待っている。お客さんに喜んでもらうことが私たちの使命です」

確かにその通りではある。

まあ、海外への技術流出を恐れるのなら、そもそもリストラするな、減員するなら、流出もしょうがない、あとで文句をいうな。ドライかもしれないが、経済原理とはそんなものなのだろう。

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