40代出産は困難ではない。厚労省報告が語ること

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少子高齢化という怪物に全力で対峙するべきである。

2013年8月19日付の日経新聞には、「不妊治療への助成は42歳まで、16年度から制限」という厚生労働省発のリリースが一面に踊っていました。これは子供に恵まれない夫婦にとっては、非常にショッキングなニュースです。働くことと切り離せない家族設計の問題について、『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)の執筆などでそのあるべき姿に迫ってきた、海老原嗣生HRmics編集長にレポートしてもらいました。※2013/10/10の記事です。

40代の不妊治療成功率が低くなる理由

件の日経新聞の記事は、以下のような内容となる。

「厚生労働省は19日、不妊治療の公費助成の対象を42歳までとする年齢制限を、2016年度から始める方針を決めた。同日開かれた有識者検討会が制度の見直し案を了承した。14~中略~15年度は移行期間とし、年齢制限は設けないが、助成回数は現行の最大10回から同6回に減らす。~中略~40歳以降に助成を受け始める場合は16年度以降は最大3回とするが、移行期間中は同5回まで認める。~中略~厚労省によると、受給件数は制度が始まった04年度に約1万7600件だったが、12年度は6.5倍の11万5200件に急増している」

またまた、女性にとっては切実な話が、政府主導で決められようとしている。

記事では決定の根拠となった厚労省の発表を以下のように書いている。

「不妊治療を巡っては、年齢が上がるにつれて妊娠する確率が下がり、流産の確率が上昇する。厚労省研究班の調査によると、不妊治療を受けた女性が出産できる確率は39歳で10.2%。42歳で3.7%、45歳で0.6%に低下するとされる」

この数字を見れば、「40歳近くになってからの妊娠は絶望的」という気持ちになるだろう。

この数字は厚労省の「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」に提出された日本産婦人科学会の2010年データがもとになっている。

しかし、このデータはいくつかの過誤が含まれる。まず、これは治療1回当たりの成功率となる。複数回治療を行えば、率は当然上がる。

続いて、治療自体には失敗したが、その後、自然妊娠したために治療を途中放棄する人をも母数に含むという問題もある。

さらに、こうして治療を続けていれば、途中で妊娠した人は、治療を終了させていく。40歳までずっと治療を続ける人は、重度の妊娠困難者の比率が高まるために、自然と妊娠確率が低くなる。該当年齢で「初めて」不妊治療をした場合の成功率とは異なることになるのだ。

現実的な40代治療成功率は3割超

実は、報告資料の中には、該当年齢別に「初めて治療を開始した人」のデータも示されている。こちらを見れば、40代で不妊治療を開始したときの状況がわかるはずだ。

さてそれを調べると、面白いことに、2人の委員からの提出資料が大きく異なる数字となっている。1人目は齊藤委員の提出した「開始年齢別の累積分娩率」だ。こちらで見ると、40代で開始した人は、1回目の治療で9%程度が分娩まで至るが、2回目以降は数字が伸びず、10回終了時点でも10%と、たった1%しか成功率が増えていない。まさに「40代で不妊治療を開始しても難しい」を地で行くデータだろう。

一方、この検討会の見尾委員提出のデータをみてみよう。

こちらだと40代前半で治療開始した人のうち、95.3%が人工受精に成功し、39.6%が妊娠に至り、その後、流産や死産があったため、分娩までたどり着けた人は、21.9%となっている。この数字自体、かなり希望をもてるものだが、さらに細かく「中途放棄者」の数字まで取っている。全体で151名の治療開始者がおり、そのうち、中途で治療をやめた人が42名もいた。それを母数から抜くと、補正妊娠率は55.9%、分娩率は30.3%となる。当然、中途放棄者の中には、自然妊娠に成功したケースもあるから、こちらはかなり希望を持てる数字といえるだろう。

図表1:40代で治療開始した場合の治療実績(見尾委員報告)

2人の委員のどちらの報告が実情をあらわしているのかは、簡単にはわからない。がしかし、症例数を見ると、見尾委員は151人の数値であり、齊藤委員は(分娩率からの割り返し概算で)60例足らずの数値となる。しかも、見尾委員は中途放棄や受精成功数、など中途経過まで克明に報告している。素人目には明らかに見尾委員に軍配が上がるだろう。

ところが、検討会ではなぜか、見尾委員のデータを無視して、齊藤委員のデータが採用される。違和感を抱かざるを得ないところだろう。

圧倒的多数が「治療ナシ」で出産に至るという現実

さて、いずれにしても、不妊治療成果から見ると、40代で治療開始した場合、治療を続けても10~30%程度しか出産に至らないということになる。つまり、大半の女性は妊娠ができないのだろうか。ここも誤解をしないでほしい。

なぜならこれは「不妊治療をした人のうち、子どもが産まれた割合」だからだ。不妊治療などせずに、普通に子供を産んでいる人はこの数字には含まれていない。そしてそうした人の数は多い。厚生労働省の人口動態調査から、その様子を説明していくことにしよう。

まず、40代の女性の出産総数は2011年全体で3万8280件(人口動態調査)ほどある。このうち、不妊治療による出生数はどのくらいか。検討会資料から以下推定してみよう。

40代の治療件数・・・・・・11万2542件(今回報告のなかの「全年代を含む治療総件数」)×30.1%(40代前半と後半の治療割合の合計)=3万3875件

これに治療当たりの成功件数を掛け合わせると、治療による出生数の概算値が求められる。1回当たりの治療の成功率は40歳が7.7%と一番高く、あとは年齢にしたがって下がり、45歳で0.6%となる。仮に「最大数」を見込むなら、全員が40歳で治療したと仮定して、3万8280件に7.7%をかけると、2608名。現実的には41歳以降でも治療をしている人は多々いるのだから、人工受精による出生数はここまで多くはないだろう。

とすると、40代不妊治療による出生数は最大でも2608名、対して治療せず自然に生まれた出生数は最低でも、上記3万8280件(人口動態調査)からの差分となる3万5672件。実に、治療による出生の14倍近くも、普通に出産できているということだろう。

しかも、40代の出生数は年々伸びている。最低だった1980年の7169名と比べて、現在は4倍増以上なのだ。その結果、40代出生率もかつての0.008から、現在では0.042にまで5倍にも上昇しているのだ。

過去の日本女性は40代でも普通に出産していた

さらに嬉しくなるデータを挙げておこう。大正時代まで遡ると、40代出生率は0.44もあった。不妊治療など期待できないこの時代で、寿命さえ60年に満たなかった(ために40代未亡人も多かった)当時でも、40代に多くの女性が出産していた。戦後の1948年でも40代出生率は0.3を超えている。つまり女性の体は、40代で子供を産めないなどということは決してない。なぜそれが急激に下がったのか?

答えは、1948年から60年の40代出生数変化から推測できるだろう。このたった12年間の間に、40代出生率は現在の約半分の0.02にまで低下している。12年間で母体に生体的変化が大きく及んだとは考えづらい。なぜなら、1960年で40代の女性は、1948年でももう28歳以上であり、成長期などとっくに終わったれっきとした成人だったからだ。

要は、40代の出生率が下がった理由は、生体メカニズムの変化よりも、文化・慣習の変化のためだろう。肉体的には今でも40代出産は言うほど難しくないのではないか。

新治療法による着床率の向上と、流産率の抑制

話が「40代で出産が可能かどうか」に偏ってしまった。この検討会の主旨である、40代不妊治療の可能性に戻すことにしよう。

見尾委員の報告から見れば、40代で治療を開始しても、途中放棄しなかった場合、30%程度の出産が可能となる。では、治療に成功しなかった70%の人たちは、どのような問題が起きていたのか。ここで一番大きいのが、「受精卵が子宮に着床せず妊娠に至らなかった」というケース。このケースが受精成功者のうちの、なんと60.1%にも達する。そう、着床障害という問題だ。

実は、「着床率」を上げるための治療として、胚盤包移植という方法がある。こちらは、通常だと受精後2~3日目の胚を子宮に戻すのだが、この状態だと受精卵も不安定なことと、自然妊娠では受精2~3日目には受精卵はまだ卵管にある(=子宮に到達していない)ため、早期着床となり体にも負荷がかかること、など妊娠率を下げる要因となっていた。そこで培養液の改良により、最近では6日目まで生育し、細胞分裂が進んで、受精卵の表面全体を細胞が覆い、内層にも細胞と体液が充満する安定した状態で、子宮に戻す治療法が確立された。それが、「胚盤胞移植」となる。

この方法がどれだけ有効なのかは、日本産科婦人科学会に発表された杉野法広教授(山口大学)の研究成果(図表/下記)を転載し、詳細を説明していく。

図表2:年齢別の妊娠率

この施術を行うことにより、30代後半の妊娠率は19%、40代前半は全社が13%でとなる。しかも、これは「治療1回当たり」の成果なのだ。複数回治療を行えば、この数字はまだまだ上がるだろう。

そろそろ国民的議論が必要な「着床前診断」

続いて、妊娠には成功したが、出産まで至らなかったケース。流産率や死産などの課題が残る。40代はこの確率が高く、妊娠者の42%を超えている(今回報告の日本婦人科学会データ)。

実は、この流産や死産への対策も、あるのだ。

それが、着床前診断―遺伝子的な問題があるかないか受精卵を調べる検査。

語感から、それが羊水検査などの「出産前検査」と勘違いされやすいが、それは誤りだ。

出産前検査は、母体内に宿る胎児を検査することを指す。着床前診断は、人工受精により受精した受精卵に対して行われる。こちらは、医学的には着床前の卵子のため、まだ妊娠していない状態といえる。

妊娠前にこの検査を行えば、流産・死産・障がいにつながる受精卵を着床させないことが可能。ただし、受精した卵子を一つの命とみなすならば、これは殺人に他ならない行為であり、また、「障がい者を取り除く」という優生主義にもつながる可能性があるので、反対意見は少なくない。

一方で着床前診断に前向きな人からは、流産の可能性が高い受精卵はそもそも出産に至らないことや、現在でも複数受精した卵子のすべてを子宮に戻すのではなく、そのうちのいくつかしか着床させていない(つまり“廃棄”している)のだから、それほど変わらないのではないか、という声も上がる。

何より、胎児に関する出産前診断が認められているのだから、という意見もある。

非常にナーバスで難しい問題なのだが、日本は法律でこれを禁じてはおらず、日本産婦人科学会がガイドラインを出して、会員の医師にそれを徹底させるという形の規制で留めている。ガイドライン的には、重篤な遺伝疾患を両親が抱えていることや、流産確率の高い転座遺伝子を両親が持つことなどが条件となっているのだが、数回の改定により、徐々に緩和方向へと動き出しているともいえるだろう。

欧米先進国では、着床前診断を解禁にしている国も多く、それにより40代の出産数が短期間に3倍にも増えたケースもある。専門家ではない私には、相違する意見のどちらが正しいかはわからないのだが、高齢出産を考える人たちにとっては、目の離せない問題といえるのではないか。少子高齢化が進む中で、その是非について国民的な議論が待たれるところだろう。


報告会では、こうした総合的な不妊治療対策や「40代で産める可能性」への示唆を行わず、どちらかというと、年齢・回数制限に力点が置かれた感が否めない。見尾委員の報告よりも齋藤委員の報告が取り入れられたのも、そのシナリオに沿ったと考えれば合点がいくところだろう。要は、破綻状態の健康保険の負担を、少しでも少なくするために、年齢・回数制限に力点が置かれたのではないか?

少子高齢化という怪物に全力で対峙することが現代日本の最大課題であるならば、ここはもう少し議論を深めるべきと、強く訴えたい。子供が増え、税収も増え、社会保険負担も軽くなり・・・・・・そう、そのことが最終的に多くの問題を解決するのだから。

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