ブームを起こしてから、今年でもう10年になりました。その間に、KARAや少女時代、東方神起、チャン・グンソクなどのK-POPタレントも次々と日本でメジャーになっています。聞けば、こうした韓流ドラマも韓流スターも、日本で話題になる前に、東南アジア各国で注目を集め、その余勢を駆って日本上陸を果たしたそうです。
さて、韓流ブームから10年。ちょっと意外なレポートを、HRmics編集長の海老原嗣生がお送りします。※2013/12/19の記事です。
今回は、本題の「海外で日本のエンタメが本格成功するか」に入る前に、国民の所得水準という話をしていきたい。
なぜなら、エンタメ界では一足早く韓国作品・スターが東南アジアを席巻しており、それに対して、「日本企業は島国根性で外に出ていかないから、先を越された」という、少々皮相的な批判がなされているからだ。
日本企業が出ていかなかった理由の第一は、所得水準にあるのだ。
所得水準を国際比較するのに一番わかりやすい指標は、国民1人当たりのGDPだ。厳密にいえば、これは財やサービスの付加価値額であり、また、海外投資や所得収支なども含まれるから、所得水準を正確に表すわけではないのだが、それでも大方はこの数字通りの所得水準となっている。
日本は、ここ数年は、世界ランク10位程度で推移している。かつては、5位以内に入っていたことから、凋落が騒がれるが、その点はそれほど危惧する必要はないだろう。なぜなら、上位5カ国は、産油国や北欧諸国であり、いずれも、人口数百万程度の小国だからだ。
人口が1,000万人を超え、しかも国土面積もそれなりに広い先進国は、大体、5~25位あたりで団子レースを繰り返している。
1人当たりのGDPにすると、4万~5万5,000ドルの間に、20カ国程度がひしめくために、景況の一長一短や、為替レートの変動により、すぐに順位が変わってしまうのだ。
たとえば、ギリシャショックが冷めやらなかった2012年をとれば、不況とユーロ安が相まって、ドイツはランクを4つ、フランスも3つ落とし、それぞれ20位以下となっている。
そんなものなのだ。だから、順位に一喜一憂するよりも、どちらかといえば、「おおよそ4万ドルが先進国の証」という基準を大事にした方が良いだろう。
日本は、過去20年以上、4万ドル内外で推移している。立派な先進国の一員と考えてよいだろう。
さて、発展著しいアジア諸国はどうか?
ここ数年、唯一、シンガポールだけが、日本を抜き、トップ10入りしている。ただし、この国の人口はたった300万人、面積も淡路島程度と、トップ5の小国よりもさらに小さな小さな国なのだ。
両国に続くのは、だいぶ数字が下がって、25位の香港。しかし、ここも旧英国植民地の都市国家であり、人口は700万人、面積は東京都の3分の1。つまり、トップ30入りしているそれなりの大きさがある国や地域は、アジアではなんと日本だけ、という状況なのだ。
近年、サムスンや現代自動車などの国際進出で注目されている韓国はどうか?
こちらは、2万2,000ドル程度で、順位は35位。続いて台湾が2万ドル。この2カ国がようやく日本の半分弱にあり、その下は、大きく水をあけて、マレーシアが1万ドルで64位、中国が6,000ドルで88位、タイが5,000ドルで95位。あとは、100位以内には、東チモールのような小国が入るのみ。
再度整理しておこう。
先進国並みの4万ドルクラスは、シンガポールと香港のような都市国家を除けば、日本だけ。 2万ドルクラスでも、韓国と台湾のみ。
あとは、日本と比べて1~2割水準の国がマレーシア、中国、タイ、東チモールで、その他のアジア諸国は、日本比1割にも満たない。
これが「発展著しい」といわれるアジアの現況となる。近年はその「成長率」にばかり目が行くが、いくらそのスピードが速くとも、基礎数値が小さいため、まだまだ、所得水準は相当小さい。それがアジアの状況なのだ。
さて、こうした所得水準だと、どんなことが起きるか?
一つは、生産コストの安さから、先進国の工場がアジア各国に進出する。それはいい面だろう。
逆に悪い面はどうか?こちらは、現地の多くの人の給与が安いため、先進諸国の所得水準に合わせたような消費財が売れないことがあげられる。
たとえば、日韓共催となった2002年のサッカーワールドカップのチケットが、日本では完売してプラチナチケット化したにもかかわらず、韓国では大量に売れ残り、日本からの弾丸ツアーがずいぶんダンピングされたのが思い出される。
日本の所得水準の半分である韓国からすれば、同じ金額のチケットでも、体感価格は2倍となる。とすると、日本円で2万円だった高額席は、韓国だと体感価格4万円といえるだろう。さすがに、日本でも「4万円」だったら売れ行きは下がったに違いない。
そう、所得水準とはこういうものなのだ。同じ値段でも国によって売れ行きが違う。
逆に言えば、同じサービスでも、国によって、「払える金額」が異なるともいえるだろう。
韓国でさえこんな感じなのだ。一部の大金持ち相手の少量高級品ならいざしらず、ちょっと割高で物量をさばくのであれば、アジアではまだまだ需要が伸びない。それが現実。
マスコミは、この「一部の大金持ち」相手の話ばかりをするから、「アジアも金持ちになった」と勘違いをしてしまうのだ。たとえば、PRADAやLOUIS VUITTONなどは、日本人だっておいそれとは手が出ない。そんな希少なブランド品だから、「少数の大金持ち」相手でビジネスが成り立つ。
これが一般消費財、特にエンタメ系ともなると、何千万人というボリュームゾーン相手になるから、所得水準の高さに合わせた値段でしか、ビジネスが展開できない。
これが、従来から日本のエンタメが東南アジア進出する際の大きな足かせとなっていたのだ。
事例を挙げて考えてみよう。
日本のアイドルは、ひそかに東南アジアでも人気が高い。しかし、彼らが現地でコンサートを行った場合、どれくらいのチケットがさばけるだろうか?
日本なら普通に「1万円」の値がつけられる席が、向こうの所得水準に合わせたなら、いいとこ3,000円が限界だろう。これでも、向こうの普通の人からすれば、日本人の感じる1万5,000~3万円と同等の値段なってしまうはずだ。
国内で普通に1万円でさばけるコンサートチケットを、わざわざ3,000円に下げて、東南アジアツアーを組んだとして、それはビジネス的においしいとは思えないだろう。何しろ、国内ツアーよりも交通費、宿泊費、保険料などがかさみ、そのうえ、慣れぬ行脚でアイドル本人も疲労がたまる。だったら、この方向に手を広げることがためらわれてしかるべきだっただろう。
逆に、日本同様の1万円で開催したらどうなるか?確かに一部の大金持ちにとっては痛くもない金額なので、購入の可能性はある。しかし、そうした大金持ちに日本の特定アイドルファンは少ない。とすると、こちらは枚数がはけない。
ということで、折衷案で、5,000円くらいの、日本にしたら安い価格、現地では高い価格で何とか、「年1回」のみ開催するといった形に落ち着く。これが関の山なのだ。
一方、韓国のアイドルの場合は、どうだろう。あちらのコンサート価格は、韓国国内でも、4,000~5,000円が上限となっている。とすると、3,000円くらいでアジア各地でコンサートを開くのは、それほどのダンピングとは言えない。しかも、人口が5,000万人と日本の半分以下の韓国だと、国内ではそれほど高い数のコンサートも開けない。
そこで人口の多い、アジア各国で3,000円くらいで興行を打つのは、有意義なビジネスとなる。
こんな形で、所得水準が高い日本起点では、アイドルビジネスがアジアに展開が難しく、所得水準が日本の半分弱である韓国起点だと、それが成り立つ、という皮肉な状況が長年続いていたのだ。
この論理にしたがえば、スポーツでも演劇でも映画でも、日本はアジアを大きなマーケットにすることが難しい。対して、日本とアジアのちょうど真ん中にいる韓国は、外に出やすく、しかも、国内マーケットが小さいことでますます、その選択を強める。だから、韓国のエンタメはアジアを席巻していったのだろう。
たとえば、韓流ドラマも、アジアでの大成功ののち、日本に上陸した。この流れもまったく同じといえるだろう。
現地の再放送枠の時間帯(昼下がり)の放映料は安い。韓国企業はここに積極的に韓流ドラマを売り込んだ。日本企業の場合は、こうした安い枠には触手が動かない。唯一動くのは、アニメくらいだろう。こちらは、まずアイドルのように「人件費」がかからない。安い放映料でも、そのあと、食品や玩具などにキャラクター使用されて、そこからの二次売上が見込める。そんな損得勘定からだ。
結果、アジア各国では、ドラマ、映画、アイドルは韓流、アニメと食品、玩具は日本というすみわけになっていった。
ところが、その構図がようやくつい最近変化しつつあるのだ。
その理由としては、韓流の浸透の結果、日本にとって喜ばしい状況が二つ生まれたからだという。
一つは、安定的に韓流ドラマが視聴率を稼いだことにより、こうした海外発ドラマが現地でも「ゴールデンタイム(午後7~9時)」枠で放映されるようになったことだ。ゴールデンなら放映料も上がる。そこで、日本もビジネスを展開しやすくなったのだ。
もう一つが、韓流のネタ切れ。ここ数年の韓流ブームにより、1990年から20年間かけて作られた作品が各地で放映され尽くした。20年分の名作であるからこそ、高いレベルを保てたのだろう。それが出尽くせば、「新作」オンリーとなる。いくら韓国でも、こうなると、質の低下が否めない。
こうした事情から、現地テレビ局は、MIP(フランスのカンヌで年2回、開催される世界最大のテレビ番組見本市)などに足を運び、ドラマの買い付けを行うようになってきた。そこで、まだ手つかずの日本の名作が注目される運びとなったのだ。
と、ここまでは、タナボタのような話ばかりだが、日本側もこのチャンスを逃さないように、しっかりとした体制を敷いている。
まず、買い付け話への対応。ともすれば殿様商売になりがちな韓国を横目に、日本側は挑戦者として誠意を打ち出しスピード対応で、商機を逃さないようにしている。
そして二つ目は、現地に進出した日本企業とのタイアップ。こうした現地法人は、その社名や製品の認知度を上げたいと思っている。そこで、日本のテレビ局、広告代理店は、日本企業の現地法人をスポンサーにつけて、CM収入込みでドラマを売り込む、というセット販売を展開している。
さらにもう一つ、上記とは異なった形でのセット販売も上げられる。これは、人気番組と抱き合せた形でのドラマの販売となる。前述のように、日本発のアニメは現地でも浸透しているので、こうしたアニメ番組とのセット販売や、もしくは、スポーツやゴルフなどは、現地邦人の有線需要が高く、こちらとのセット販売という形でもドラマを売り込んでいる。
こんな形で、日本のドラマは韓流に追いつけ追い越せという状況にある。
その結果、ようやく日本のテレビ局・広告代理店も、グローバルビジネスに目を向け始めた。
さて、その先にはどんな世界観が待っているのだろうか。
私は、テレビや代理店を核にした、「日の丸連合」が生まれてくるとよいのではないか、と考えている。
たとえば、飲食品やアパレルは、製品を広告する場としてドラマを使い、日本国内の販促を行う。そのドラマを輸出して、ドラマ放映により、現地でも認知→浸透→販促を行う。 当然、そのドラマの輸出時、現地用のCMにも、日本でクライアントだった企業の現地法人がつく。
ここまで計画的に進行させていけたなら、テレビ局や広告代理店は、そのまま、エンタメ産業の商社機能を担うことになっていくのではないか。
ただし、そのためにはテレビ局や広告代理店の人事制度改革が不可欠ではないだろうか。現状では、こうした国際ビジネス展開も、制販一体型の番組提供も、各社の生え抜きプロパーの優秀層が、特命プロジェクトで担っているケースがほとんどとなる。
制作現場で鍛えられて、番組作りがわかる社員が、たまたま早期に営業などへローテーションされて、そこでも頭角を発揮し、そのうえで、ライツ(著作権管理)ビジネスなどの部署も回った、などという偶然の産物のような人材を集めて、細々と国際展開が進められている。
確かに、この国際ビジネスがまだ小さな存在ならば、こうした実験的組織に、偶発的人材を集めるので事足りるだろう。ところが、ここからこうしたビジネスが奔流となり、また、それとは違う新たなビジネス(たとえが、国際協調型制作や、ネットとの融合など)が次々と生まれるようになってきたら。今の体制では、人材は供給しきれないはずだ。
すでに、従来型のテレビビジネスは完全に曲がり角を超えて退潮傾向がはっきりしている。ならばこうした、クリエイティブとビジネスを融合させて、メディアや国境の枠を超えて新たな流れを導き出せるような、人材を拡充させていってはどうだろうか。
一つには、すでにグローバル・ハイテクメーカーが何年も前から行ってきた、計画的な社内ローテーションで、こうした多様性のある人材を開発していく方法が考えられる。
二つ目は、総合商社や損保大手などで国際プロジェクト経験を豊富にもち、ターゲット国に詳しい人材を移入するという方法が考えられる。
確かに、昨今、テレビ局や広告代理店でも、30代の他業界スペシャリストを採用するケースが時折みられるようになってきた。それは、こうした流れの一貫なのかもしれない。
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