医薬・医療業界は、本年度は新薬の上市(発売)の谷間にあたります。リーマンショック後の創薬投資の抑制が、あれから4年経った現在、上市の谷間を生んだのです。さて、再び上市が増える再来年までの間、業界では何かしらの新たな胎動が見られるのでしょうか。今回もHRmics編集長の海老原嗣生がレポートします。※2012/12/13の記事です。
新薬を開発するはずの医薬品メーカーが、傘下にジェネリック(後発薬/特許切れの薬を他メーカーが作る)子会社を設け始めている。それもブロックバスター(画期的な新薬)を有する大手有名メーカーが、国内系・外資系問わず、同様の動きを始めているのだ。
会社によって、自社内に新たな事業部門を作るケースもあれば、中堅のジェネリックメーカーを買収するケースもある。つい最近までは、所得水準の低い途上国にて、安価な後発薬を販売するために、傘下にジェネリックメーカーを設けるケースは見られたが、昨今は日本国内でこれが行われている。
なぜなのか?少し業界事情も交えて説明することにしたい。
そもそも、ブロックバスターを有する大手メーカーは、自社製品に関してジェネリックを売る必要性が極めて小さい。
なぜなら、発売後15年で特許が切れると大幅に単価は下がるが、それでも薬を開発したメーカーには、後発ジェネリックよりも、2割程度高い単価が認められているからだ。しかも、すでに15年分の臨床データも蓄積されており、医師としては後発薬よりもやはりエビデンスに富んだ旧薬を使いたい気持ちになる。だから、従来は特許が切れても旧薬を売り続けていたのだ。
それがどうしてこんな動きになったのか?
一にも二にも、ジェネリックの普及が本格化しそうなことが背景にはあるだろう。
欧米ではすでにジェネリックのシェアが6~7割になる国が普通だ。日本でも本年度中に処方比率で3割を目標にかかげ、この数字に近づきつつある。社会保険財政がひっ迫しつつあるわが国で、医療費抑制は喫緊の課題ともいえる。それだけに、今後、ジェネリック需要が一層伸びる可能性が高い。そこで、医薬品メーカーは二つの戦略を採り始めた。
一つは、予想通り、他社開発の旧薬に対して、後発薬を作ってその市場に参入すること。
そしてもう一つは、特許切れになった自社薬に対して、効能ではなく値段勝負の競争が始まったとき、防衛役として、自社傘下のジェネリックが迎え撃つ、という挟撃体制の確立が目的となる。
医療費抑制のために、ジェネリックを推進する動きは、3段階で進められてきた。
まず、2006年4月より、それまでは後発薬も医師の処方箋での指示が必要だったものが、「変更可」という指示のみで、あとは薬局にて、どの後発薬でも処方が可能となった。この段階で、「可」がついている場合なら、一番安い後発薬を患者が薬剤師に要望することが可能となったのだ。
ただし、あくまでもこの時は医師がわざわざ「後発薬への変更可」と処方箋に明記しなければならなかった。という意味で、医師も患者からの要望がない限り、なかなか「変更可」と書きはせず、結果、後発薬の普及は10%台にとどまってしまった。
こうした問題がある中、第二段として2010年からは、逆に「変更不可」の場合の明記が必要となり、それ以外は基本、「変更可」という形に処方箋が変わった。
この改定により、2011年度には後発薬の処方比率は2割を超える。
さらに、本年度末に3割到達目標を掲げた今年の4月には、処方箋がより使いやすいように、3度目の改定がなされた。今までは、「変更不可」にチェックを入れた場合、そこに記載されたすべての処方が後発薬不可となってしまったものが、薬の種類ごとに「変更不可」をチェックできるようになったのだ。
こうした3回に及ぶ推進策により、ジェネリックの浸透がいよいよ本格時期を迎えている。
さて、こうして後発薬OKの土壌が生まれると、医師の処方は絶対ではなくなり、原則、薬局の薬剤師の裁量により、後発薬が自由にチョイスされることになる。
こんな状況になると、医薬品メーカーの営業(MR)は、医師ではなく、薬局の薬剤師に営業をかけることになりそうな気がするが、現実はそうなってはいない。
それにはいくつかの理由がある。
まず、薬局の薬剤師は、扱う品目が多すぎる。それこそ湿布薬から抗がん剤まで、何万という薬剤が並ぶ。その中で、一品一品、いろいろな営業が来て「わが社の製品をお願いします」と頼んでいても、まるでらちが上がらない。覚えられるわけがないからだ。
その点、病院のドクターへの営業であれば、専門が分かれ、自社の薬剤が処方される相手がうまくセグメントされる。そこに営業をかけるのが効果的という営業効率の問題がある。これが一つ目の理由。
そして、今でも患者は病院の周辺に並ぶ薬局(門前薬局)で薬を受け取る確率が高い。そうした門前薬局では未だに医師の意向が強く反映される。つまり、ジェネリックの場合でも、電話で医師にお伺いを立てるケースが多いのだ。とりわけ、副作用が心配されるような薬剤や、患者がアレルギー体質などを伴う場合ともなれば、医師の意見は重要だ。だから、薬剤師はやっぱり医師の指導を仰ぐことになる。こうして結局、医薬品メーカーのMRは、薬局の薬剤師相手ではなく、今でも医師に営業をかけるのだ。
とすると、ジェネリック・オープンで、一番合理的な薬が患者の手に届く、というよりは、やはり、ジェネリックといえども医師が勧める製品が、薬局で処方される可能性が高くなる。法律は改正されて、販売メーカーもそれに伴ってシフトを変えても、売り込む相手やその手法は今までとそれほど変わらないといえるだろう。
今後、こうした後発薬のビジネスの構造が大きく変化するには、医薬業界の外で、いくつかの変化が起きることがキーになるだろう。
たとえば、昨今流行りの、チェーン展開されたドラッグストアに併設された薬局での処方が普通になり、門前薬局ではなく、家や会社のそばで処方するようになること。つまり、医師の指示が届かなくなるような変化が起きる必要がある。
昨今では、コンビニエンスストアに併設されている薬局や、一部チェーン店が早朝・深夜の処方を受け付けるようにもなってきた。こうしたケースが増えれば、わざわざ門前薬局の長い列に並んで待たされるよりも、会社帰りの深夜や、出がけの早朝などに薬を家のそばでもらうようになるだろう。こうした私たちの生活の変化が、やがては医師とMRの関係をも新たなものに変え、その結果、より安価で効能が良いジェネリックが普及していくのだろう。
いや、その前に、薬局で「一番安い薬にしてください」と恥ずかしげもなく言えるようになるという、患者側の意識の変化も必要そうだ。とかく、見栄っ張りの多い日本人に、こちらはけっこう難易度が高いかもしれない。
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