サービス・流通業界(3/3)「政権交代と大政奉還」

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経営の世界でもこんなことが言われています。
「人は、肉体的能力を超える力を与えられると、想像力が働かなくなる」

採用や教育など人事関連の実務に追われて忙しい毎日の皆さまに、この連載を通して広くビジネス全体を知っていただく機会をご提供していきます。前回(サービス流通業界(2/3))、新ビジネスモデルについてはその動きが明らかになりました。今回はそれとは違う、不況期に起こる「定番」の変化をお送りします。レポートはHRmics編集長の海老原です。※2009/08/20の記事です。

不況期に起こるベンチャー企業の社長交代

不況中盤に差し掛かると、メザニン(ベンチャーの最終段階)ステージを終えて名実ともに大手となった新興企業が往々にして社長交代を果たすことがある。

創業者のアイデアとパワーで急成長してきたが、そろそろ社内体制をきれいに整理し、次の飛躍にむけて新たな柱を作る、という目的で、この社長交代が行われる。以下に例を上げよう。

  • ・ファーストリテイリング(文中「ユニクロ」)、2003年に創業者柳井正氏から玉塚元一氏に社長交代
  • ・パソナ、2000年に創業者南部靖之氏から上田宗央氏に社長交代
  • ・カルチュア・コンビニエンス・クラブ(文中「CCC」)、1996年に創業者増田宗昭氏から寺尾和明氏に社長交代

景気が上げ潮だと事業拡大が手一杯で、こうした機構改革は難しい。景気悪化時期だからこそ、次に向けたフォーメーションチェンジが出来るのだ。

「コンサル+番頭格」という複線指導体制

上記の例を分析すると、3社とも新経営陣は以下の組み合わせになっていることが分かる。

  1. 1、事業をよく知る番頭格(ユニクロ澤田氏、パソナ上田氏、CCC寺尾氏)
  2. 2、外から来たコンサル的人物(ユニクロ玉塚氏、パソナ中山氏、CCC小城氏)

この二人を揃えて、どちらかを社長にし、残りの一人を準社長に置く、というコンビネーションを採る。ただし、過去の3社のケースでいえば、この体制は3年程度の中期的なものであり、その後は揃って創業社長に大政奉還をした。

なぜだろう?

確かに目的の一つ、「体制整理」の方はスムーズに進んでいく。しかし、「新しい柱」が一向に出来ないのだ。その結果、組織自体は合理的になるが、売上は低迷が続く。そして最後に、この手詰まり状況を打破出来るのは、やはり創業者しかいない、という共通のパターンになるのだ。

ひょっとすると、半ば確信犯的に創業者はこのシナリオを敷いているのではないか、とさえ感じられる-「新経営陣は社内整理さえしてくれたら御の字、新しい柱作りは無理かも知れん。その時は復帰すればいいわ」と。

コンサル出身経営者の得手・不得手

では、なぜ、「新しい柱」は出来ないのか。
これも簡単なことなのだ。

まず、コンサル出身者の得意領域は、ターン・アラウンド(費用削減)とBPR(効率化)が主で、あとは競合分析、マーケット分析、などになる。つまり、

  1. 1、経営の下半身をスリム化させ、利益アップは得意。
  2. 2、競合が上手くやっていることを物まねするのも得意。
  3. 3、顧客が「欲しい」といっているものを探すのも下手ではない。

のだが、他社がやっていないこと、顧客の「欲しい」だけでは商売にならないもの、となると、なかなか難しい。

ここから先は、創業者と二人三脚でやって来た番頭格の方が担当となるのだろう。
しかし、彼が2つの意味で力を発揮出来ない壁に突き当たる。

生え抜き番頭格の不全

一つ目の理由は、コンビの相方であるコンサル出身者の方が、スマートで見栄えの良いパフォーマンスを発揮するために、番頭格は焦燥感にさいなまれること。

そしてもう一つ。創造に一番必要な能力=イマジネーションとクリエイティビティが、極度に低下するのだ。これはなぜ起きるのか?

ギュンター・アンダースという人の言葉で、「人は、肉体的能力を超える力を与えられると、想像力が働かなくなる」というものがある。たとえば、他人と喧嘩をして、相手を殴り殺すことは、普通の人には出来ない。人間の力で相手を殴れば、それはとても痛いということがリアルに想像でき、相手の苦痛が手に取るように分かるからだ。

ところが、ピストルだったらどうだろう?さらに機関銃や爆弾だったら・・・、人間の肉体的能力を超える力を与えられると、相手の苦しみは想像出来なくなっていく。

経営の世界でも同じことが言われている。

営業や製造、カスタマーサポートなど、顧客と常にせめぎ合いをしている「現場」では、顧客の気持ちが手に取るように分かる。ところがそれを束ねて、管理職になっていくと、だんだん顧客が見えなくなる。

この頂点にあるのが「社長」なのだ。号令一下で万単位の社員が動く。自分の肉体的能力をはるかに超えた、大きな力を持つわけだから、顧客の立場など想像が出来なくなるのだ。

ところが創業社長はこれが出来る。なぜか?彼は、組織が大きくなり現場が見えなくなるたびに、自ら現場に近づく、ということを繰り返しながら、企業の成長に歩調を合わせて自分の想像力も成長させてきたからだ。創業社長が「超人」にも見えてしまう所以である。

「新社長となった番頭格だって、この成長サイクルを上ってきたのではないか?」

答えは、いいえ、なのだ。確かに社長就任直前の役員時代までは、現場と行き来しながら自分の想像力も成長させてきた。ただ、社長としては現場を見たことがない。役員から社長への最後の階段は大きく、この階段を上ったために、全く想像力がついていけなくなる。前を向けば、コンサル出身者のスマートさ、後ろには創業社長の偉大さ、という板挟みに苦しむわけだ。

安全弁が、かえって創業者復帰を促す

ただそれでも、想像力の源泉である「現場」が活性化しているうちは、企業は新たな柱を作れるだろう。

ところが、コンサル出身者は、この大切な聖域に対しても、仕組み化・効率化を施し、数値目標で管理する手法を取り入れる。こうなると、現場さえも顧客が見えにくくなり、最終的に「想像力」が企業全体から減退していく。

このころに、創業社長は復帰するのだ。そして、確かに合理的でスマートな体になった組織に、ハートフルな頭脳が載り、企業は成長を再開、というコースをたどる。

こんな予定調和を望まない創業者は、何とか新体制でも、「想像力」を担保できるようにと、置き土産を作る。若手社員の有能層を集めて、彼らに次世代戦略を考えさせる、といった類の対策となるだろう。パソナのジュニア・エグゼクティブボードはこの典型例だ。

ただし、これが裏目に出たりもする。

創業者子飼いで生え抜きの「想像力豊か」な若者たちは、シズル感に乏しい新経営陣とそりが合わず、結果、会長である創業者に親和性を感じ続ける。彼らの現場感を真に受ける創業者は、会長であっても「想像力」を保持・研鑽し、新社長との差は開いていく。

そして-。
小異はあれど、CCC、ユニクロ、パソナ3社ともこの流れに終始した。
今回の不況でも、同工異曲が再演される可能性は低くはないだろう。

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